発達障害児のためのモンテッソーリ教育とは。個性や人格を自ら創造し、自己実現を支援する教育

出産・子育て

公開日:2021/5/10

発達障害児のためのモンテッソーリ教育
『発達障害児のためのモンテッソーリ教育』(佐々木信一郎/講談社)

「モンテッソーリ教育」をご存じだろうか? イタリア人医師のマリア・モンテッソーリ(1870-1952)が開発した幼児教育法のことだが、将棋の藤井聡太二冠が幼稚園のときに受けていたと一躍注目されたので聞いたことがある人もいるだろう。

 実はアマゾンの創始者ジェフ・ベゾスやフェイスブック創始者のマーク・ザッカーバーグなど世界有数のイノベーターがこの教育を受けていたといわれており、「子どもの潜在能力を引き出す教育法」として数年前から話題の存在となっている。そのためかなんとなく「英才教育的なもの」と捉えている人も多そうだが、実はもともと知的障害児のために開発された教育法であり、実際に発達障害児の教育現場でかなり成果をあげているという。

『発達障害児のためのモンテッソーリ教育』(佐々木信一郎/講談社)は、多くの実践例を紹介しながら、モンテッソーリ教育がどう発達障害児の教育に有効なのかをわかりやすく紹介してくれる好著だ。

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 著者は1989年にドイツで障害児のためのモンテッソーリ教育を学び、以来、長年にわたって障害児教育の現場に関わってきた、こじか保育園園長・佐々木信一郎先生。ひとくちに発達障害といってもそれぞれの子どもが抱える困難はさまざまだが、多くの子はいきなり一般の幼稚園や保育園のような「集団」の場に入れられても、戸惑ったりできなかったりすることが多く浮いてしまうことがある。結果的にそれが本人の心を大きく傷つけて発達を阻害してしまったり、あるいは問題解決が図られないままになってしまったりするのは大きな問題だ。

 大切なのは「集団に合わせることではなく、一人ひとりの育ち」に注目することであり、「一人ひとりはみな違う。その違いを前提に、子供を見ること、育てること」だと佐々木先生。そんなときに「子ども一人ひとりが異なること」を前提に、「子どもの発達にあったさまざまな教具・教材を環境に起き、子どもが主体的に自分のやりたいものを自由選択し、取り組み、自己教育をする」というモンテッソーリ教育は、多くのヒントにあふれているという。

 たとえば自閉症スペクトラムの子の中にはその先の予定があらかじめわかっていないととても不安になり、急な予定変更や先の見通しが立たない状況にパニックを起こしやすい子がいる。想像性の障害(次に起こることが想像できず不安になる)、同一性保持(一度頭に入ると切り替えが困難になる)、求心的統合の弱さ(時間など具体的な形のない概念に対する理解の困難さ)などが原因と考えられるが、そんな彼らが優位性を発揮しやすいのが「視覚的情報処理」。言葉を使った聴覚的な情報処理よりも優れていることが多く、モンテッソーリ教育では彼らのそんな特性に注目して支援をしていくのだ。

 それは「予定を目で見てわかるようにする」といった工夫であり、そのために有効な教材(今日の予定表、きのう・きょう・あしたカレンダーほか)の作り方や使い方を本書は詳しく教えてくれる。しかも教材は本人の理解度にあわせて複数あり、家庭で自作可能なものが多いというのもうれしい。

 このほかモンテッソーリ教育では発達障害児の学びのサイクルをどう作っていくか、非認知能力と認知能力をどう育てるかといったメカニズムに関する解説も詳しく、「モンテッソーリ教育を実践している施設が近くにない」と困っている方にも心強いに違いない。「世界に一人だけの子どもが、自分の人生を生き抜けるように支えていきましょう」と佐々木先生。発達障害の子育てに悩む多くの方々の背中を、本書がやさしく押してくれることだろう。

文=荒井理恵

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