お母さんの悲しそうに笑った顔が今も忘れられません。母の日に「ありがとう」を伝えられない人へ

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更新日:2021/5/8

「ありがとう」を言いたくてお母さんへのラフレター
『「ありがとう」を言いたくてお母さんへのラフレター』(ラフレター事務局:編/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 親子関係というのは、年をとるほど、単純じゃなくなる。愛に満たされた家庭であっても、叫び声が飛び交うような家庭であっても、どちらでもない家庭であっても、互いに年をとるにつれて内面が変化していき、関係も変化していき、いつの間にか当たり前のことが素直に言えなくなる。

 ありがとう、ごめんね、元気かな? こんな何気ない言葉でさえ、どうしても言えなくなってしまうのが、親子というものだ。筆者自身、家族とは円満な関係を築けているが、やはり素直な気持ちを話すのが難しかったり、心配をかけそうで言えないことがあったり、円満といえども微妙な距離がある。

 5月9日は、母の日である。この日は、母親に日頃の感謝を伝え、カーネーションを贈ることが一般的らしい。カーネーションを用意できた人は、きっと円満な親子関係を築けているのだろう。でも、もし、感謝を口にすることさえためらう人は、せめて心の中の母親へ贈る「ラフレター」を用意してはいかがか。

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 2007年、新宿歌舞伎町で働く手塚真輝氏が発起人となり、親や家族への想いを伝える投稿サイト「ラフレター」がひっそりと誕生した。そこにつづられたのは、全国の若者から寄せられた正直な想い。いつもは心に鍵をかけた素直な言葉を、この投稿サイトにだけ、ひっそりと打ち明ける。

『「ありがとう」を言いたくてお母さんへのラフレター』(ラフレター事務局:編/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、そんな母親への正直な想いを、1冊の本にしてまとめたものだ。

実家にいるときはうるさくていなくていいと思ってた
でも一人で暮らしてから、家族のあたたかさがわかったよ
龍矢

 手に取ればわかる、彼らの胸の痛みがじんじんと伝わる。

血を分けた両親とはいえ、距離を埋めることは難しい。
まだ我慢するそれぞれがここにいる。
わがままなのかな?
20代 ゆう

 本当に言いたい言葉は、胸の中にある。けれども、どうしても口からは出てこない。

傷つけるつもりなんかなかったんだよ。
でもお母さんなら何でも許してくれるんじゃないかって甘えてた。
口にだした瞬間しまった!と思ったけど遅かったね。

お母さんの悲しそうに笑った顔が今も忘れられません。

ごめんね。
そんな簡単な一言が言えない強情な娘です。

ごめんね。
ごめんね。
大好きお母さん。
20代 女性 東京 みぅ

 ときにそれが焦りに変わることもある。

しわくちゃになるから、それ以上顔をかいちゃダメだよ。
しわ一本一本に僕の知らない思い出がつまってるんだろうな。
それを思い出しながら、さすってるのかな。

でも、ぼくはかあさんがこれ以上しわしわになるのを見たくない。
あせっちゃうから。
25歳 男性 銀

 やがて、手遅れになることもある。

さよならを言う時間が近づいてきています。

わたしはおかあさんのことが大好きでした。
あなたに抱きしめてもらいたかった。
もう無理ですね。

あなたの残り少ない時間をわたしはどう過ごせばいいのでしょう。
ありがとう。さようなら。
女性 A

 この本を読んでいると、切なさで胸をしめつけられた。様々な理由で家族の形がちょっと変になって、今もどんな距離で、どう付き合えばいいかわからず、そっけない言葉を口にしてしまう。気持ちと裏腹の態度をとってしまう。そんな後悔に似たラフレターが、多くを占めていた。

 でも、まだ間に合うかもしれない。人間、優しくなるには時間がかかる。今はその途中なだけであって、いつか親や家族と真正面から向き合える日がくるはずだ。

俺は母をずっと恨んでいましたし、
大人たちは冷たい人達だと、そう思っていました。
でも人生という色んな事情と複雑なことがあることを、
大人になってからわかりました。

いろんな困難やつらい思いを乗り越えてきた母はすごいと思うし、尊敬します。
これから俺も母みたいに強く生きたいです。
ホスト ムサシ

 すべてを肯定できないかもしれない。どうしても分かり合えない部分が残るかもしれない。それでも、そこに家族の愛があったならば、心の奥から自然と想いがあふれてくる。

逃げたくても、逃げないのは
あなたたち二人の教育のおかげです。

俺って弱いけど
そこだけは曲げません。

人間に育ててくれてありがとう。
33歳 男性 ゆうさく

 子どもの頃と同じようにはいかないけど、一緒に過ごしたいと思える瞬間が、またやってくるはずだ。

顔見せに来いって言われるけど、本当は俺が顔見に行くほうなのかも。
一緒に過ごす時間、全然足りてないから。
26歳 東京 BB

 今はまだ、母の日にカーネーションはおろか、感謝さえ口にできない。そんな人がいて、自分を変えたいと思ったときは、誰に見せるでもなく、ラフレターを書いてはいかがだろう。

たまにあげるプレゼントにすら
ありがとうを添えられなくて
悔しい思いをいつもしてる。

気恥ずかしくて、
今さら伝えられないよ。
25歳 女性 福島県 はるか

 子どもから母親へ、素直なラフレターが、あなたの気持ちを少しだけほぐしてくれる。今は大事な人へ届かなくていい。いつか、届けばいいのだ。

文=いのうえゆきひろ

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