「あなたの余命はあと3000文字きっかりです」突飛な設定から5分で“どんでん返し”の驚きが味わえるショート・ショート集

文芸・カルチャー

更新日:2021/5/8

余命3000文字
余命3000文字』(村崎羯諦/小学館)

 小説を読みたい。けれど、まとまった時間が取れない。そんな人には、短いストーリーが何話か収録された短編集をすすめるようにしている。近年は、通勤や就寝前に読みやすい、1話数分で読める作品を集めた本も増えてきた。今回紹介する本作『余命3000文字』(村崎羯諦/小学館)も、そんな作品集のひとつだ。表題作は、きっかり3000文字である。

 本作は、投稿サイト「小説家になろう」の年間純文学【文芸】ランキングで1位を獲得した作品。人気の理由は、読者を惹きつける突飛な設定と、短いながらも各編に「どんでん返し」的な驚きがあることだ。「小説家になろう」投稿作に書き下ろしを加えた全26編を収録している。そのうち、筆者が特にひかれたものを紹介したい。

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残りの人生どう過ごす? 「余命3000文字」

 やはり表題作の「余命3000文字」は外せない。ある男が余命を宣告されるのだが、何年ではなく“3000文字”。人生があと3000文字分で終了してしまうのだ。医者によれば、考えすぎるとすぐに字数を消費してしまうので、なるべく平凡で同じような毎日を過ごせば長生きできるという。男は助言を守りながら暮らしていたが、ある日…というストーリー。小説の文字数が寿命になるというユニークな設定が、自分の人生とリンクする。

どうして不味いのに繁盛する? 「食べログ1.8のラーメン屋」

 お次は、皮肉たっぷりの作品を。とあるラーメン屋のアルバイトは、ある疑問を持っていた。うちの店は不味くて接客も悪いのに、どうして繁盛しているのだろうか。食べログの評価はまさかの1.8で、悪口がたくさん書かれている。それに対して、店長は語る。「はあ、ビジネスってもんが全くわかってねぇな、お前は」。どんな秘密かと読み進めていくと、最後にはハッとさせられる結末に。自分にも思い当たる節があった。

改めて問われると恥ずかしい…「幼馴染証明書」

 これはもうタイトル勝ちである。幼馴染関係が証明できれば、補助金がもらえる社会が舞台。タケトと希美は役所を訪れるが、発行のための審査は案外厳しかった。交友期間やお互いの両親とのエピソードを訊かれ、だんだんと質問はふたりの関係の核心に迫っていく…。異次元の切り口から始まるラブコメだ。

 読者を裏切る「どんでん返し」展開の後には、人間の本質に迫る普遍的なテーマが浮かび上がってくる。心温まる感動的なものから、人間の汚い部分が暴かれるものまでさまざまだ。ひとつひとつの話は短いが、小説を読むおもしろさが存分に詰まっている。ぜひ、通勤通学などすきま時間のお供として、気軽に少しずつ読み進めてほしい。ただし、思わぬ返り討ちにあうかもしれないが。

文=中川凌 (@ryo_nakagawa_7

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