自分のことを何と呼ぶ? 普段使っている言葉がアイデンティティに与える影響

暮らし

公開日:2021/5/22

「自分らしさ」と日本語
『「自分らしさ」と日本語』(中村桃子/筑摩書房)

 あなたは自分のことを指すとき、どう表現しているだろうか?

「わたし」「あたし」「ぼく」「おれ」「うち」「おいら」――。

 さまざまな一人称のどれかを決めて使っている人もいれば、場面に応じて使い分けている人もいるだろう。特に昨今では、SNSで複数のアカウントを持つことも当たり前となっている時代。TwitterとInstagramで別々のキャラクターを作り、「わたし」や「ぼく」と区別して使っている人も少なくないのではないだろうか。そこで使うことばによって、価値観や規範が自然に立ち現れてくる。

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『「自分らしさ」と日本語』(中村桃子/筑摩書房)は、言語社会学の分野から「ことばとアイデンティティ」の問題をやさしく読み解いていく。言語社会学とは、「社会とことばのかかわりを調べる」学問だ。

 なお、本書は「ちくまプリマー新書」シリーズである。「プリマー=入門書」であり、一般の教養新書と比べ、よりベーシックで普遍的なテーマについてわかりやすくまっすぐに伝えていくコンセプトだ。

 例えば、私たちは「パソコン」「スマホ」などと何でも省略して短く言うが、人の名前の言い間違い、読み間違い、書き間違いは、失礼なことと認識している。これはどういうことなのだろうか。ふと立ち止まって考えてみることを、本書は手助けしてくれる。

 振り返ると、かつての日本では元服、襲名、出家、隠居といった各段階で改名しており、人生において複数の名前を持つのはよくあることだった。一人一名主義となったのは明治初期のことだ。その背景には、「国家が国民を管理する目的があった」という。つまり、国家の考え方を、個人が内面化してきた歴史が垣間見える。

 一方で、前述したように、近年ではSNSのアカウントを複数持ち、ハンドルネームを使い分けている人も少なくない。明治時代より前の日本人が立場の変化に応じて名前を変えていたように、SNSの中の自分の姿に合わせて、私たちは名前を決めている。そして、一人称を使い分けている。

「名前」「呼称」「敬語」「方言」「女ことば」といったテーマで、本書は考察を深めていく。普段は何気なく使っている「ことば」が、私たちの思考やアイデンティティにどれほど影響を与えているか、本書を読んだ人はきっと驚くことだろう。

 ことばの豊かさと奥深さを味わいたい人におすすめしたい。

文=遠藤光太

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