真っ白な少女を掻き乱す妖艶な罪人たちの、罪深く見苦しい告白本

小説・エッセイ

公開日:2012/8/15

月光

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:誉田哲也 価格:594円

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人間のどろどろとした欲望や、登場人物達の愛狂う姿に幾度となく目を背けました。
身勝手だ、卑怯だ、卑劣だ、
そういった描写の中に見え隠れする、人間らしさに救われながら、読み終えたといっても過言ではありません。

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「姉が、死んだ」
全てはここから始まりました。事故死とされた姉の死の真相に迫るために妹は姉が通っていた高校に入学します。そこで見えてくる姉の本来の姿。ひとりは姉を美しく語り、またもうひとりはおぞましく姉を記憶していたのでした。

語り手が変わりながら繰り広げられていくこの作品の、臨場感溢れる文体から、音や匂い、風吹、肌のぬくもりまで伝わってくるようで、良い意味で恐ろしく感じます。月光という曲が包み込んでいるのは、姉の死そのもの。美しさが、妖艶さが、透き通った姉の在り方が、音色そのものです。

綺麗に映るはずの文字たちでさえ、人間の奥の奥に潜んだ欲望の渦にのまれて霞んでいく、それこそがこの作品の特徴ではないかと思います。後読感の良いものが綺麗な作品だとすれば、この作品は良い気分では終われません。だけど、決して汚れてはいない私の中に残るやるせなさが、ラストにある儚さを美しく受け取れたのだと思っています。

こんなにも醜い人間たちの、こんなにも見苦しい愛たちが、月光の音色と共に、儚く救われていく姿を見届けることができたいま、今まで知ることのなかった世界を覚えたかのように、真新しい気持ちでいっぱいです。


月光、というタイトルは、まさに姉の姿そのものです