『ちゃお』の付録にもモテの秘訣が…。カレー沢薫が数々のモテ事案に向き合う! 最後に明かされる、本当の「モテ」の意味とは?

文芸・カルチャー

更新日:2021/5/26

モテるかもしれない。
『モテるかもしれない。』(カレー沢薫/新潮社)

 漫画家でコラムニストのカレー沢薫氏の新刊『モテるかもしれない。』(新潮社)は、「非モテ」を自称する彼女が「モテ」に対する憧れや嫉妬を駆動力とし、実際にモテている有名人やキャラクターからモテの真髄を学ぶという著作だ。実用性を重んじるハウツー本というよりは、ずっと非モテをこじらせてきた著者がどうやって「モテ」と折り合いをつけるか、というのが裏テーマだと思われる。

 著者はモテている人はもちろん、モテようとあがいている人すら眩しくて直視できないと記す。小中高とイケてないグループ内でしんがりを守っていた自分は、あまりにもモテと縁遠い人生を送ってきたからだという。そんな著者に鞭打つように、担当編集者は段ボールに大量の資料を入れて送ってくる。

 まず送られてきたのはJS(女子小学生)向けの雑誌。「小学生からモテをやり直したい」という見出しの通り、著者は女子小学生向けの雑誌からモテの極意を学ばんとする。少女漫画誌の『ちゃお』の付録の手帳には、モテの秘訣として①明るく元気、②自分を捨てる、③聞き上手になる、と書かれている。小学生の頃から男目線を意識させるという、英才教育のようなこの文言に、著者はしょっぱなから及び腰になってしまう。

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 その後もモテについての考察が続く。具体例として俎上に載せられるのは、EXILEのメンバーたちが主演するシリーズ映画、『名探偵コナン』に登場する圧倒的なモテキャラ、賛否分かれる西野カナのモテソング、一緒に月に行ってくれる女性を募集する前澤友作など。その中で特に気になったケースに触れよう。

「面倒くさいのにモテる者たち」は、精神的に不安定で面倒な人のモテについての考察。自分に自信が持てず、「こんな私(や僕)なんて……」と思っている人たちは、「そんなことないよ」と誰かに言ってもらいたいのだろう。そう著者は分析する。ダメな自分の話に粘り強く耳を傾け、肯定してくれる他者を欲しているというわけだ。そこで浮上してくるのが、JS雑誌におけるモテの鉄則の③聞き上手になる、というキーワードだ。第2回「小中学生からモテをやり直したい」における伏線が、第13回「面倒くさいのにモテる者たち」で鮮やかに回収されている。著者が狙ったかは定かではないが、この展開は実に巧緻である。

 そして、最も「モテ問題」において芯を食った説を提示しているのが、「売れっ子AV男優に学ぼう」。AV男優にとって、セックスの相手の9割は好みのタイプではなく、自分の母親ぐらいの齢の女性とも相対しなければならないことも。自分から女性を選ぶ権利はもちろん、ない。そして、対応できなければ商売あがったりなのである。

 このケースから学ぶべきこととして、著者は恋愛対象の「どこかいいところを探す」ことを挙げている。この視点はかなり重要なポイントだ。要するに、好みのストライクゾーンを広く持ち、誰でもウェルカムと構えていれば、モテる確率は確実にあがるのでは、というわけだ。現状でモテていないのに相手を選んでいる時点でさらにモテなくなる。この負のループから逃れるには、ハードルを下げるしか道はない。

 ただし。著作でリア充への憎悪をむき出しにし、コンプレックスの塊のようにも見える著者は、なんと既婚者であった!! 「結婚は全くオワコンではない」という文の次に「私も既婚者だが」と息を吸うようにしれっと述べている。正直、その事実を知らなかった筆者は、椅子から転げ落ちそうになった。特定のパートナーと永続的な関係を築けているのに、この本を書く必然性があったのだろうか……。

 だが、本書の結びで著者は重要な指摘を記す。モテるとは恋愛対象に限らず「人に好かれたい」という心根の表れであり、人間誰しもひとりで生きられないことの証左である、と。すなわち、ひとりで生きるのは、山奥で孤独なサバイバル・ライフを送るのと同じようなものだというのだ。著者にとって「モテ」とは筆者が思うよりもずっと射程の長いものだったことが、最後の最後に明かされる。これしかないと言うべき見事な着地点であり、それまでの疑念が払拭される、見事な幕引きである。

文=土佐有明

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