少年誌の気鋭と漫画界のレジェンドによる強力タッグ! 「トリリオンゲーム」に挑む若者たちの熱き青春グラフィティ

マンガ

公開日:2021/5/25

トリリオンゲーム(1)
『トリリオンゲーム(1)』(稲垣理一郎:原作、池上遼一:作画/小学館)

 漫画の世界はまさしく栄枯盛衰であり、ヒット作を出したからといって、その次の作品が当たるとは限らない。それでも長い年月が過ぎる中で、ひと握りではあるがずっと第一線で活躍する漫画家も誕生する。例えば、貸本時代から漫画を描き続け、同業者からも尊敬を集めるレジェンド・池上遼一氏もそのひとりだ。そんな大御所と、少年漫画でヒット作を連発した気鋭の原作者がタッグを組んだらどうなるか──。『トリリオンゲーム(1)』(稲垣理一郎:原作、池上遼一:作画/小学館)は作画を池上遼一氏が担当し、原作は『アイシールド21』や『Dr.STONE』という「週刊少年ジャンプ」で連載され、アニメにもなった人気作の原作を手がけた稲垣理一郎氏が務める。両氏は2015年に「こぶしざむらい」という読み切りで組んでいるが、今回は連載作品ということでファンならずとも期待しかない。

 基本的に稲垣氏のスタイルとして、『アイシールド21』のヒル魔や『Dr.STONE』の千空といったキレ者キャラが、一芸に秀でたキャラ(『アイシールド21』ならセナなど)をうまく導いていくというものがある。本作に関してもそこは踏襲されており、切れ者の「ハル」がIT関連の知識に詳しい「ガク」と共に、1兆ドルを稼ぎ出そうという「トリリオンゲーム」に挑む物語だ。

 コミュニケーションがやたらとうまく腕っ節の強いハルと、コミュ障気味で内気な性格のガクという対照的なふたりだが、かつて半グレに絡まれていたガクをハルが救った縁で、ずっと友人関係にある。ふたりは就職活動のさなかにあったが、連戦連勝のハルに対し、ガクは連戦連敗。そんな彼らが最後に挑むのは、巨大IT企業「ドラゴンバンク」だ。しかし結果は順当に、ハルは採用されガクは不採用に。ところがハルはドラゴンバンクの入社を一蹴。ガクと共にドラゴンバンクを「買い叩く」道を選び、彼らはふたりだけの会社を起業する──。

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 ストーリーは、とにかく型破りなハルがガクを巻き込みながら、次々と自分のやりたいように行動していくことで展開していく。ハルは基本的に自らの行動をガクには説明せず、無茶ぶりとも思える要求をガクに示してくる。しかしそれは「ガクならできる」というハルのガクに対する絶対的な信頼があるからだ。それが分かるからこそガクもその信頼に応えようと、全力でミッションを遂行しようとするのである。クールでダンディな大人の画風が持ち味の池上氏が描くハルとガクはとても若々しく、稲垣氏による熱い友情物語をこれ以上ない形で描いているので、読む側はグイグイと引き込まれていくのだ。

 もちろん掲載誌である「ビッグコミックスペリオール」は青年誌なので、少年誌では難しいアダルトな部分も気になるところ。ハルとガクの前に現れる「桐姫」と呼ばれるドラゴンバンク社長令嬢は、池上キャラの真骨頂ともいえる美女である。特にハルと桐姫は今後も縁浅からぬ仲になりそうで、彼らの関係からも目が離せない。

 ハルとガクの友情や、桐姫とのロマンスなど見所満載の本作。とにかくハルによる型破りな行動から、ハルの要求に応えてミッションをクリアするガクという流れが実に痛快だ。池上氏と稲垣氏の強力タッグは漫画界に新たな風を巻き起こし、令和の名コンビになりうるかもしれない。

文=木谷誠

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