妖怪王の花嫁となった孤独な少女は、自らの運命を全うすべく生きる…!王道の異類婚姻和風ファンタジー『ぬらりひょんの花嫁』3つのポイント

マンガ

公開日:2021/5/29

ぬらりひょんの花嫁
『ぬらりひょんの花嫁』(吉田真翔/白泉社)

 遊女の月夜は顔に負った火傷の痕のため、客がつかず、同じ廓の遊女たちからも嫌がらせを受けつつ春をひさいでいた。そんなある日、ふしぎな雰囲気をまとう客・朧(おぼろ)の指名を受ける。なんと朧は妖怪の総大将、ぬらりひょんを父に持つ妖怪の王だったのだ。「俺の嫁になって傍にいてほしい」と朧から求婚されるが――。

『花とゆめ』(白泉社)で大好評連載中の異類婚姻和風ファンタジー、『ぬらりひょんの花嫁』(吉田真翔)。待望の第1巻がこのたび発売された。孤独な少女と妖怪王のロマンス、繊細かつ愛らしい絵柄で紡がれる個性的な妖怪たち……本作の読みどころを3つに分けて紹介したい。

(1)朧との出会いによって強くなっていく主人公、月夜

 主人公の月夜は天涯孤独な少女。幼い頃に母を火事で亡くし、親戚の家をたらいまわしされた挙句、遊女となった境遇だ。顔の左側に大きな火傷の痕があり、それが劣等感となって普段はお面をかぶって張見世に出ている。しかし朧は彼女の素顔を見て、言う。

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「俺はこの傷 見れば見る程 愛おしく思うぞ」

 周囲から醜女と蔑まれ、月夜本人も醜いと思っていた自分の顔の傷。それを朧は「愛おしい」と言ってくれた。

その言葉は月夜にかけられていた呪いを解く。そして朧からの求婚を受け入れ、自らも妖怪となって共に生きていこうと決意する。ひとりの孤独な少女が恋によって勇気を獲得し、強くなっていく姿が切々と展開されていく。

(2)朧をはじめ、個性豊かでユーモラスな妖怪たちが続々登場

 涼しげなまなざし、整った姿かたち、堂々とした立ち居振る舞いがなんともカッコいい朧。しかし母親が人間という「半妖」である彼は、一度その能力を使うと、その反動でヘタレ状態になってしまう。とりこんだら完全な妖怪になれる「妖怪石」を探し求めて旅する朧と、そんな彼に献身的に仕えるマスコット的なキャラクター、覚(さとり)。

 この2人(?)をはじめ、人を食べる鬼や、朧の命を狙う烏天狗の少年・夜白など、私たち日本人にとってなじみのある妖怪が続々登場する。ちょっぴり怖くて、それでいてどこかなつかしさを感じさせるあやかしたち。著者独特のやわらかなタッチの絵柄と、絶妙に合っている。2巻以降はどんな妖怪が出てくるのか楽しみだ。

(3)月夜と朧が少しずつ“夫婦”になっていく姿が愛おしい

 朧の嫁となったはいいものの、それまで恋愛経験が皆無だった月夜は、彼にどう接したらいいのかまるで分からない。加えて、朧が自分を嫁にした理由は、自分を妖怪にしてしまった(第一話参照)責任感からではないだろうか……。そんな疑問まで生じてくる。

 朧を意識すればするほど、月夜の胸の中の不安が増していく。その不安の正体が「好き」という感情なのだと気づくまでの、じりじりもだもだとした葛藤が、じれったくも微笑ましい。

 旅の途中で様々なトラブルに巻き込まれて、朧に守られるだけでなく、自分もまた朧を守ろうとする月夜。彼女のそんな想いにふれて、いっそう月夜への愛を深める朧。2人は少しずつ、一歩一歩、夫婦になっていく。その姿は初々しくて、とても愛おしい。

文=皆川ちか

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