シン・ウルトラマンの目は人工物? ガチの科学者によるエキサイティングな特撮考察!!

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公開日:2021/5/31

子どもの心を強くする すごい声かけ
『特撮の地球科学 古生物学者のスーパー科学考察』(芝原暁彦、大内ライダー:著、すざ木しんぺい:イラスト/イースト・プレス)

 庵野秀明が脚本を手掛け、樋口真嗣が監督を務める映画『シン・ウルトラマン』の公開を待ちわびているファンは多いだろう。私もその1人で、新型コロナウイルスの関係により公開日が未定のなか、少しでも情報に触れたいと渇望していたところ、『特撮の地球科学 古生物学者のスーパー科学考察』(芝原暁彦、大内ライダー:著、すざ木しんぺい:イラスト/イースト・プレス)という、面白い本を見つけた。映画の予告映像では、胸のカラータイマーと、目の黒い部分が無いウルトラマンの姿が確認できる。もともと、成田亨がデザインした初代のウルトラマンの画にはどちらも描かれていなかったが、子供たちに視覚的にウルトラマンの弱点が分かるようカラータイマーが付けられ、着ぐるみに入るスーツアクターの視界を確保するために目にのぞき穴が開けられたのだ。今作でリブートするにあたって、成田のデザインをリスペクトしたのだろうとは誰しも思うところなれど、本書ではそれをあえて科学的に考察している。

 著者の芝原暁彦氏は古生物学者であるのと同時に、子供の頃に『ゴジラVSビオランテ』を観て衝撃を受けて特撮ジャンルに目覚めたという人物で、バンド「科楽特奏隊』のメンバーであり行動派特撮オタクの大内ライダー氏との対談形式で綴られた本書には、以下の2つのルールが示されている。

1.特撮作品の画面に映っていることはすべて「事実」と捉える
2.特撮作品が作られた時代の技術的背景や世相なども考慮する

『シン・ゴジラ』でヤシオリ作戦の本部がゴジラに近すぎ問題

 まず『シン・ゴジラ』の東京侵攻ルートについての考察に、ゴジラの位置情報が記されている地図が載っているのだが、作成したのは茨城県つくば市にある産業技術総合研究所の川邉禎久先生。火山研究者としても有名な川邉先生は、映画館に10回以上も通って作中に出てくる時計のシーンから記録を起こしたそうだ。それをもとに著者が地形を調べてみると、最終決戦場となった東京駅が「台地と低地のちょうど境目に建っている」ということを発見する。そしてヤシオリ作戦の本部は科学技術館に設けられ、地図上の距離だけを見ると約2kmと近すぎるように思われるが、標高差を考慮すれば小高い丘の上にあるため、東京駅の周辺を見下ろす位置となる。ゴジラは、UAV(無人航空機)に反撃するのに熱線を上空へ向かって発射しているから、高層ビルより「むしろ、ちょっと低い所にいる方が、熱線に当たる確率は低くなる」ので、近くとも指揮をするのに好都合だったと考えられるという。初代ゴジラについても、地盤を踏み抜かない所を縫うように歩いていることから、「東京の地下構造を知っていた」可能性を指摘している。

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ウルトラマンの目は、黒目の部分が本物の目?

 著者は、TVシリーズの『ウルトラマンZ』の劇中で使われていた機器が架空の小道具ではなく、「うわっ! ガチのハンドヘルド蛍光X線分析計だ!」と気がつき興奮したそうだ。そんな作品における「ウルトラマンZは未来の話仮説」も興味深いものだったが、本稿では『シン・ウルトラマン』についての考察に集中しよう。

 まずカラータイマーが無い理由については、あくまでエネルギーの残り時間を報せる装置なので、宇宙警備隊が装備する人工物であるとして、2つの可能性を提示していた。一つは、舞台となる地球が私たちの住んでいる現実と異なり太陽エネルギーがすさまじく降り注いでいる環境で「残り時間が存在しない可能性」、もう一つは「初代と見せかけておいて、実は新人である可能性」だ。一方、ウルトラマンの目は普通の生物と違い、物を見る他にビームを発射する場合もあり、破壊光線を出すだけでなく透視したりすることから、実は光学兵器のたぐいと推測し、黒目の部分こそが本物の目なのでないかと考察していた。

 また、ウルトラセブンには黒目があるのに息子のゼロには無く、ウルトラマンタロウと息子のタイガも同様なため、「ウルトラマンの黒目は遺伝するものではない」可能性が高いとしたうえで、私たちが目だと思っている部分もまた人工物ではないかと指摘している。先の新人説からすれば、最先端かつ流行りのサングラスのような物を装着しているということか。

 本書では他に、仮面ライダーや戦隊ヒーローなどに「いつもの広場」こと「つくばセンター広場」がたびたび登場するのは、つくば万博の会場跡地であり産業技術総合研究所などが周辺に集まっているため、「先端研究は狙われるから!」という理由を挙げていた。「いつもの岩場で闘う」のは何故なのか、「いつもの神殿」の正体とはといったことなど、読みながら自身も考察してみると面白いだろう。

 ところで、本書で提示されたルールからすれば、「事実」と考える基となる『シン・ウルトラマン』はまだ誰も観ておらず確認のしようがない。もし考察と違っていたら……と思うのだが、その点についてどう考えているのだろうか。そう思っていると科学者然とした言葉が目に入り、続刊を期待したくなった。

「それが科学!! 仮説を立てて検証する!! 間違ってたらもっと研究する!!」

文=清水銀嶺

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