スティーブ・ジョブズも教えたアメリカ教育界のスーパースターが語る「子どもを信じること」の大切さ

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公開日:2021/5/31

TRICK スティーブ・ジョブズを教えYouTube CEOを育てたシリコンバレーのゴッドマザーによる世界一の教育法
『TRICK スティーブ・ジョブズを教えYouTube CEOを育てたシリコンバレーのゴッドマザーによる世界一の教育法』(エスター・ウォジスキー:著、関美和:翻訳/文藝春秋)

 どんな親も、はじめから親なのではない。子どもができて、初めて親となる。だからこそ、子育てに悩む。子どもには健やかに育って欲しい、できれば大成してもらいたいと願いながら、そのための子育てを模索する。

 アメリカに教育界のスーパースターと呼ばれる女性がいる。このエスター・ウォジスキー氏は、自身は貧しい家庭環境に育ちながらも、より良い子育てを模索しながら実践し、3人の娘を健やかに大成させた。長女はYouTubeのCEOに、次女はカリフォルニア大学医学部の准教授に、三女はバイオベンチャー23andMeを起業し、CEOとなった。また、かの有名なスティーブ・ジョブズ親子も、教鞭をとる氏の教育を受けた。これらの実績が評価され、全米で氏の子育てが注目されている。

 氏の子育ては、5つのキーワードの頭文字をとって「TRICK(トリック)」と名付けられた。その全容が解説されている『TRICK スティーブ・ジョブズを教えYouTube CEOを育てたシリコンバレーのゴッドマザーによる世界一の教育法』(エスター・ウォジスキー:著、関美和:翻訳/文藝春秋)から、私たちが実践できる子育てのヒントを探りたい。

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「TRICK(トリック)」は、先述のとおり、5つのキーワードから成る。

Trust(トラスト)…信頼
Respect(リスペクト)…尊重
Independence(インディペンデンス)…自立
Collaboration(コラボレーション)…協力
Kindness(カインドネス)…優しさ

 TRICKは、Trust…「信頼」から始まる。この「信頼」とは、親が子どもと自分自身を信じることを指す。例えば、8歳の子ども2人を量販店まで車で送り、買い物リストを子どもたちと確認した上で、子どもだけを降ろし、1時間後にレジで待ち合わせる。これを、氏は孫娘に行った。多くの親には、真似をし難い。氏が住む街パロアルトはアメリカで最も安全な地域のひとつということだが、それでもアメリカのほとんどの親にとっては「危険な行為」。私たちの考え方と相違ない。

「しかし」と氏は述べる。氏いわく「親は怖がりすぎている」。本書は、国民が自国に抱く信頼度の調査データを示している。つまり、治安についてだ。2018年時点の結果では、前回調査比で、アメリカ人は自国に抱く信頼度を9ポイント低下させている。これは過去最大の低下幅だという。アメリカ外を見ると、イタリアで5ポイント低下、最低ランクはアイルランド、南アフリカ、ロシア、そして日本だった。言い換えれば、ほぼ全世界で、親は周囲の環境から受ける子どもの身の危険を心配している。学校現場では、教師は生徒とふたりきりになることが許されず、ハグなどもってのほか。大人同士が信頼し合えず、子どもにも「大人を信用するな」と教える。

 本書は、「これは間違いだ」と述べる。実際は、世界はどんどん良くなっており、大半の大人は信頼できる、という。しかし、メディア業界では「良いニュース」より「悪いニュース」のほうが売れるため、悪いニュースがより大量に強く発信される。それを信じた大人が、必要以上に子どもを脅す。「TRICK(トリック)」の「Trust(信頼)」を実践するためには、まず親が自分自身と子どもを信じて、任せてみることが欠かせない。

 では、具体的にはどのように「Trust(信頼)」すれば良いのだろうか。例えば、10代の子どもに車のキーを渡す。または、12歳の子どもに、初めてひとりで留守番をさせる。そして、子どもがウソをついたりルールを破ったりしたときには、怒鳴り散らさず「がっかりした」と伝える。こう伝えることの目的は、子どもとの信頼関係を壊さずに、子どもに挽回の機会を与えること。この思いが伝われば、子どもは二度と信頼を裏切らないよう努める。信頼関係がより強化される、と本書はいうのだ。

 親子の信頼関係が、子どもを伸ばす。この考え方は、会社にも通じる。氏の長女はYouTubeのCEOと冒頭で紹介した。長女は、グーグルの第一歩ともいえる検索エンジンの開発にも関わった。このとき、長女は検索エンジンの開発者と強い信頼関係を築き、それが成功への促進剤となった。やがて巨大に成長したグーグルは、「20パーセントルール」という独自の働き方を導入する。これは、社員が仕事時間の20パーセントを、グーグルの目的に何らかのつながりがあるような個人的なプロジェクトに自由に充てることができる制度。そして、この制度がイノベーションを生み続けている。エスター・ウォジスキー氏と長女との「Trust(信頼)」の考え方が証明された好例だ。氏は、「子どもを信頼し、尊重し、四六時中監視しないような環境の中で、子どもを育てたほうがいい」と述べる。

 もちろん、放任せよ、ということではない。親が強制力をもって制止する場面も必要だ。本書は400ページを超える厚い書だ。「TRICK(トリック)」の考え方、具体例が豊富かつ詳細に収録されている。

文=ルートつつみ (@root223

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