「独り」の男女が手を繋いだとき、動き出す大人のダンス・ストーリー! 人と関わりづらい現在だからこそ読みたい作品!!

マンガ

公開日:2021/6/2

シャドークロス 1
『シャドークロス 1』(スガワラエスコ/集英社)

 コロナ禍により外出が制限される中、運動不足に悩まされる人が増加するのは自然であろう。かくいう私もそのひとりだが、孤独に筋トレに励んでも長続きしないのは分かっている。他の人は運動不足をどう解消しているのか気になったが、そういえばウチの父親は「ダンス」をやっていた。割と真面目に取り組んでいたので、そんなに面白いのかと思っていたが、競技ダンスを題材にした漫画なんかを読んでみると、確かにハマりそうではある。『シャドークロス 1』(スガワラエスコ/集英社)もダンスに取り組む男女を描いた大人の物語で、注目したい作品だ。

 ヒロインの赤城冬実はスーパーで働く19歳の女性。幼い頃のトラウマが原因で対人恐怖症となり、他人に触れることができなかった。そのため仕事は失敗ばかりで同僚たちからも呆れられていたが、ある出来事が彼女の運命を大きく動かす。それは冬実が働くスーパーの屋上でダンスを踊る、長尾忍との出会いだった。彼はパートナーと別れて「シャドー」と呼ばれる単独練習を行なっていたのだ。その姿に感動した冬実は、忍から不意にダンスに誘われる。他人に触れられないはずなのに、なぜか忍の手を取ることができた冬実。そのことに嬉しさを感じると同時に、ダンスが全然踊れなかったことを悔しがる。そして忍に対し、「ダンスを教えてください」と懇願するのだった──。

 この物語は対人恐怖症で「独り」だった冬実と、パートナーと別れて単独練習の「シャドー」をするしかなかった忍が「クロス」することで動き出す。冬実はダンスに関して全くの素人なので、ダンスを知らない読者にも競技ダンスがどのようなものか分かる流れになっているのはありがたい。冬実は忍からダンスのことを教わりながら、彼の目標がドイツで開催される競技ダンスの頂点「グランドチャンピオンシップ」でチャンピオンになることだと聞かされる。そして1週間で「ワルツを踊れるようになる」ことを求められた冬実はシャドーで練習を続けるが、なかなかうまくいかない。そう、これまでずっと孤独だった冬実にとって忍はようやく出会ったパートナーであり、彼女の真価は忍と踊るときにこそ発揮されるからだ。街のイベントで冬実と踊ったワルツでそれを知った忍は彼女をパートナーと認め、ふたりの「グランドチャンピオンシップ」への道が始まるのであった。

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 この作品は大人のストーリーも素晴らしいが、実に巧みなのが「緩急」である。例えばパートナー結成後、ダンスの衣装を見に行ったふたりが直面したのは「お金」の問題。ダンスの衣装や遠征費など、何かと費用がかかるのだ。その問題を解消するため忍が提案したのが、冬実との「同棲」だった。同棲など経験のない冬実はとにかく慌てまくるが、実際は彼女が思っていたものとは全く違う同棲生活が展開し、翻弄される冬実の姿がコミカルで非常に楽しい。冬実と忍が抱えるそれぞれの「孤独」などのシリアスなドラマと、日常のドタバタ喜劇が作り出す「緩急」が、本作の魅力のひとつなのである。

 感染リスクにより人との接触が敬遠される現在、他人との繋がりが失われたという向きは多いだろう。そういう意味では、冬実や忍と同様の孤独を多くの人が抱えているのかもしれない。だからこそ早くコロナ禍が収まって、冬実たちのように互いに手を取り合える世の中になってほしいと本作を読んで感じた次第だ。

文=木谷誠

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