人生最期の日が近いとわかったとき、人は何を考え、どう過ごしたいと思う?

マンガ

公開日:2021/6/5

はっぴーえんど
『はっぴーえんど』(魚戸おさむ:著、大津秀一:監修/小学館)

 あなたは、人生最期の日をどこで迎えたいと思うだろうか。実は、日本財団がおこなった「人生の最期の迎え方」に関する意識調査によると、58.8%の人が「自宅で最期を迎えたい」と回答している。理由は「自分らしくいたいから」「住み慣れているから」などさまざま。そんな人々からの需要が高まりつつあるのが“在宅での終末期医療(ターミナルケア)”だ。

『はっぴーえんど』(魚戸おさむ:著、大津秀一:監修/小学館)は、そんな“在宅医療”や“終末期医療”をテーマに描かれた漫画である。もちろん本書の登場人物や物語はフィクションだが、読了後は「こんな風に自分も、人生最期の日を迎えられたら幸せなのだろう」という思いがめぐった。

 本書の舞台は、雪がしんしんと降り積もる冬の北海道・函館市。主人公の天道陽は自身の診療所を持ちながら在宅医も担当する医師だ。天道が診る在宅患者は高齢者がほとんどで、中には余命が短く、人生最期の瞬間を自分の家で迎えようとしている人もいる。

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 ある日、高橋という男性が「先生に相談したいことがある」と言い、診療所を訪れる。相談事とは、41歳になる息子・幸助のことだ。彼はステージ4のがんを患っており入院先の医師から余命3ヶ月を告げられてしまった。幸助には妻と娘もいるため、高橋は「せめて残された時間を自宅で、家族と一緒に過ごすことはできないだろうか」と天道に聞きに来たのだ。天道は高橋の要望を承諾し、在宅で終末期医療がおこなえるように手はずを整えていくのだった。

 自宅での生活に戻れたことで、食欲や気力が少しずつ戻っていく幸助。しかし、決して病状が改善しているわけではない。少しずつだが最期の日は近づいているのだ。幸助と家族もそれはわかっていたのだろう。後悔しないよう、残された日々でたくさんの思い出を共有していく……。

 本書を読んでまず考えたのは「もし人生最期の日が近づいている知ったとき、僕なら何をして過ごすだろう」ということだ。現状、僕には妻も子もいないため、もし誰かと過ごすなら自分の親、兄弟という選択になる。では何をして過ごすのだろう。正直思いつかなかった。それはきっと自分の死を身近に感じていないからだろう。幸助や他の登場人物のように、自分の死を身近に感じたときにしか湧かない感情や思いがあるのかもしれない。本書はそんな彼らの感情や思いを、まるで実際にあった出来事かのように丁寧に描いている。

 幸助は亡くなる5日前、天道に「最期にやりたいこと」を告げる。それは自分のためではなく妻、娘、父のためにやりたいと思ったことだった。彼が天道に告げた“やりたいこと”とはいったい……?

 ちなみに1巻では、天道が在宅医療と終末期医療を専門とする医師になろうとしたきっかけも描かれている。もともと外科医として大きな病院に勤務しており、名医としての将来を嘱望されていたという天道。そんな彼がキャリアを捨て、看取る医師を目指すようになった理由とは。こちらも気になるところだ。

 またこの4月には、新型コロナウイルスによる感染症をテーマにした『はっぴーえんど-新型コロナ編』も発売されている。当たり前の日常が一変しウィズコロナとなった時代でも、天道は在宅患者と向き合い続ける。そんな彼の物語にもぜひ注目していただきたい。

文=トヤカン

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