非行少年たちが残酷な犯罪を起こさないために、私たちができることは?

マンガ

公開日:2021/6/4

ケーキの切れない非行少年たち
『ケーキの切れない非行少年たち』2巻(宮口幸治:原作、鈴木マサカズ:漫画/新潮社)

 犯罪が起きたとき、被害者は取り返しのつかない傷を負い、時には命を落とす。刑期を終えて出所すれば人生をやり直せる加害者とは異なり、被害者はそれによって人生が狂ってしまう。

 だが第三者は、「加害者を責めて終わり」でいいのだろうか。彼らがなぜ罪を犯すに至ったのかを知らなければ、同じような犯罪が何度も起こり、傷つく被害者、悲しむ被害者の家族・遺族は増えるばかりだ。

 漫画『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治:原作、鈴木マサカズ:漫画/新潮社)の原作は、発行部数67万部を突破した同名のベストセラー新書である。本作では、「境界知能」を持った子どもたちが時に非行少女・非行少年になる理由が、わかりやすく説明されている。境界知能とは知能指数70から84の範囲を指し、全体の14%を占める。

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 2巻では二人の未成年の受刑者が登場する。前半は、1巻終盤から登場したパニックを起こして教師を失明させた、妊娠8か月の少女・門倉恭子(かどくら・きょうこ)だ。

“何か困ったことが起きたとき
しっかり道筋を立てて考える力があれば
なんとかその困難を乗り越えることができる

しかし知的なハンディがあって
考えることが苦手だと
どうしていいかわからなくなってしまう”

“そしてパニックになる……”

 主人公の児童精神科医・六麦(ろくむぎ)は、続けてこれは虐待してしまう親にも多いと述べる。

 彼女には知的障害のある弟がいて、母親がパニックになって弟を虐待している姿を見て育った。

 門倉自身、教師に注意されてパニックになり傷害罪で服役するのだが、少年院での暴力防止プログラムを経て、教師が注意したのは自分のことを考えてくれたからなのではないかと思うようになる。

 もし彼女が罪を犯すもっと前、幼少期にそれに気づき、適切な支援を受けられていたら、この犯罪は起こらなかったのではないか。

 出所後、愛情をもって自分の子どもを見つめる門倉だが、母親と同じように自分も子どもを虐待するようになり、子どもは児童相談所で保護された。子どもに会えない門倉は、またパニックになる。

 人はすぐには変われない。だが小さな気づきによって改善する可能性はある。

 このエピソードは2巻中盤でひとつの結末を迎えるが、その後も彼女の人生は続いていく。被害者に対する罪悪感は心に芽生えるのか。そして子どもを虐待しないで育てられるのか。

 暗黙のうちに、本作は問題提起をしている。

 次のエピソードは性犯罪がテーマだ。7歳の少女にわいせつ行為をした少年・出水亮一(いずみ・りょういち)は六麦に、少年院での生活は聞いていたより楽しそうだと言う。彼は、「少年院に入る」意味がそもそも理解できていない。

 彼は性に関する非行の講座に参加する。そこで自分の生い立ちを振り返るところで2巻は終わる。

 性犯罪と聞いただけで、おぞましい気持ちになる人は多いだろう。だが加害者を極悪人だと決めつける前に、このエピソードを読んでほしい。そうしないと「どうすれば性犯罪を減らせるのか」まで思考が行き着かない。

 境界知能の少年少女による残酷な犯罪を減らすために、私たちができること。

 社会全体で考えることが必要であり、本作はそれに対する大きなヒントを与えてくれるはずだ。

文=若林理央

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