異世界ファンタジーに異能バトルに歪んだ愛、続々と盛られる多彩なジャンルを食べ尽くせ!

文芸・カルチャー

公開日:2021/6/5

探偵はもう、死んでいる。 1 (MFコミックス アライブシリーズ)

著:
原著:
企画・原案:
デザイン:
出版社:
KADOKAWA
発売日:

 ミックスフライでも幕の内弁当でも、いろいろな料理をいちどに楽しめるメニューは大歓迎。それぞれの料理が少しずつしか入ってないのが寂しいところだが、これでヒレカツも海老フライも焼き魚も卵焼きも、一食分になるくらいのボリュームだったら嬉しさはマックスまで膨れ上がる。

探偵はもう、死んでいる。
『探偵はもう、死んでいる。』(麦子・二語十・うみぼうず/KADOKAWA)

 小説だってそう。異世界ファンタジーにSF異能力バトルにスパイアクションにスペースオペラをまとめて味わえる小説があったら、どんなに楽しいだろう。二語十による『探偵はもう、死んでいる。』シリーズがまさに、SFありミステリありのジャンルミックスぶりで大人気になっている。そして、ぶんころり作『佐々木とピーちゃん』シリーズは、『たんもし』に負けず様々なジャンルのストーリーが、それぞれ特盛サイズでたっぷりと皿に盛られたり、ぎっしりと重箱に詰められたりしている小説だ。

佐々木とピーちゃん
『佐々木とピーちゃん 異世界でスローライフを楽しもうとしたら、現代で異能バトルに巻き込まれた件 ~魔法少女がアップを始めたようです~』(ぶんころり・カントク/KADOKAWA)

 第1巻の『佐々木とピーちゃん 異世界でスローライフを楽しもうとしたら、現代で異能バトルに巻き込まれた件 ~魔法少女がアップを始めたようです~』というタイトルからして、その特盛り具合を表している。主人公は佐々木というアラフォーのサラリーマン。ひとり暮らしの生活に潤いが欲しいとペットショップに文鳥を見に行ったら、1羽がケージの中から「えらんで、えらんで」と呼びかけてきた。

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 それならと連れ帰った文鳥が言うには、ファンタジー調の異世界で大賢者をしていたが、、追放され現代に文鳥の姿で転生したのだとか。ピーちゃんと名付けた文鳥に連れられ異世界へと出入りするようになった佐々木は、現代日本では安価だが、異世界では珍しい紙やボールペンを売って大もうけを企む。文化や技術の水準が異なる異世界で、現代人ならではのアドバンテージを生かし成り上がろうとする物語ならではの味わいを持った設定だ。

 稼いだ金で牛肉でも最高級部位のシャトーブリアンを買い、味わいながらのんびり過ごすという佐々木とピーちゃんの願いが、これで叶うかと思ったら甘かった。異世界で得た金塊を現代世界の通貨に換えようとすれば、どこかで官憲に見つかり理由を探られる。どうすれば良い? そこに、完全に異世界へと転移・転生させない設定だからこその妙味が示される。

 ピーちゃんに教わった魔法の力を現代日本で使ったことで、佐々木は国が密かに結成していた、異能力者たちを使って悪い異能力者たちが起こす事件を取り締まる組織に存在を知られてしまう。局員としてスカウトされた佐々木は、捜査活動の中で二人静という敵の異能力者と知り合い、裏世界に通じた彼女を寝返らせることで金塊の換金ルートを確立する。

 こちらのストーリーだけでも、様々な異能力がぶつかりあって繰り広げられるスリリングなバトルがあり、味方のはずが敵と通じていそうな上司の下で、身を守ろうと必死になる謀略サスペンスの要素もあって実に楽しい。独立したシリーズとしても通用しそうだが、そこで出し惜しみせず、異世界での成り上がりストーリーを重ねることで味がグッと広がった。

 おまけに、これは美味い……ではなく巧い小説だと噛みしめていた口を広げて、新たなメニューを突っ込んで来くるから、文字通りに開いた口がふさがらなくなる。家族が皆殺しにされたからと異能力者を恨み、魔法少女になった少女が異能力者を惨殺しまくるストーリーをトッピングして来た。これはもう、メインディッシュが次々と大皿に載って回ってくる回転寿司。なおかつそれぞれの皿が超特盛りだから素晴らしい。

佐々木とピーちゃん
『佐々木とピーちゃん2 異世界の魔法で現代の異能バトルを無双していたら、魔法少女に喧嘩を売られました ~まさかデスゲームにも参戦するのですか?~』(ぶんころり・カントク/KADOKAWA)

 異世界サイドは異世界サイドで、佐々木が商売を始めた王国が、内に跡目争いを抱えつつ隣国の侵略に脅かされ、存亡の瀬戸際にある。そこで佐々木が、現代の技術や知識、そして魔法の力を振るって逆境を切り抜けるのかといった戦記物の面白さが漂い始めて、そうしたジャンルのファンをワクワクさせる。

 現代日本サイドでは、異能力バトルに魔法少女の乱入が加わり、そこに佐々木の部屋の隣に住んでいて、母親にネグレクトされ腹を空かせていたところを、佐々木が与えるパンやジュースで凌いでいた女子中学生が、悪魔の使徒となって関わってくる。この女子中学生との絡みだけでも、家出して来た女子高生をサラリーマンが拾って部屋に住まわせる、しめさば作の『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』に似た人生の物語が読み取れる。

佐々木とピーちゃん
『佐々木とピーちゃん3 異世界ファンタジーなら異能バトルも魔法少女もデスゲームも敵ではありません~と考えていたら、雲行きが妖しくなってきました~』(ぶんころり・カントク/KADOKAWA)

 なおかつ『佐々木とピーちゃん』の場合は、善意を愛情のように感じ取り、佐々木に返そうと迫っていく女子中学生の心理に、歪んだ執着心が見えて『ひげひろ』よりもダークな展開が浮かんでしまう。最新刊の『佐々木とピーちゃん3 異世界ファンタジーなら異能バトルも魔法少女もデスゲームも敵ではありません~と考えていたら、雲行きが妖しくなってきました~』に至っては、テーブルの上にさらに斬新なメニューが乗せられる可能性が仄めかされている。

 それは宇宙戦争か、それとも魔界大戦か。まるで考えが及ばないが、確実なのはどんなメニューが来ようとも、絶対に美味しいということだ。もう満腹だと席を立つにはまだ早い。食べて食べて食べ続けるのだ。

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探偵はもう、死んでいる。 1 (MFコミックス アライブシリーズ)

著:
原著:
企画・原案:
デザイン:
出版社:
KADOKAWA
発売日:
ISBN:
9784046800077