【次にくるマンガ大賞 2021特別企画】過去の受賞作を振り返り!乙女警部とツンデレ泥棒に萌えるコメディ『錦田警部はどろぼうがお好き』

マンガ

更新日:2021/6/21

ユーザーから「次にくる」と思うマンガを募集し、そこでノミネートされた作品から投票によって大賞を決める”ユーザー参加型”のマンガ大賞「次にくるマンガ大賞」。7回目となる今年のノミネート作品が出そろい、6月18日(金)から投票がスタートする。ぜひ参加して推しの作品を応援しよう! ドキドキの結果発表を待つ間に、過去の受賞作品を振り返ってみてはいかがだろう。本記事では2018年にコミックス部門で第3位を獲得した『錦田警部はどろぼうがお好き』(かんばまゆこ/小学館)を紹介!

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 世界を騒がす怪盗を、どうしても捕まえられない警部。ただ、それだけの話なのに、気を抜いていると笑うし、萌えるし、ときめいてしまう不思議な作品だ。

 かつては「死んだ目の錦田」と呼ばれ、事件に対してやる気も興味ももたないながら、圧倒的な好成績を積み上げていた錦田警部。しかし、彼はある日、とある泥棒に出会うことで、まるで人が変わってしまったかのようになる。

 その泥棒が、世界を騒がす怪盗ジャックだ。怪盗ジャックは、必ず事件の前に予告状を警部のもとに送る。そして、万全の警戒状態をしかれた中で、お目当てのものを必ず盗んでいく。

 どこかで聞いたことのあるような設定である。というか、天才的な泥棒と、それを追いかける警部、という構造は、もはやテンプレート的なものになっているだろう。しかし、この作品は、その「追いかける」という部分に、どうも警部の「乙女心」のようなものが含まれているのだ。

 かつて「死んだ目」をしていた錦田警部は、怪盗ジャックから予告状が送られてくるたびに、少女漫画のヒロインのような目の輝きで大事に読み上げる。怪盗ジャックの情報は、「それだけ知っていてなぜ捕まえられないのか?」というレベルで徹底的に調べ上げられており、どこかストーカーのような狂気性すら感じられる。

 しかし、いざ怪盗ジャックが登場すると、あまりに想いが強すぎて近づくことすらできない。いや、推しを目の前にしたオタクか。もはや単なる熱烈なファンである。せっかくのチャンスも、警部が照れて逃げてしまって、結局怪盗ジャックを逃してしまう。

 ちなみに、そんな警部が日々恋い焦がれている怪盗ジャックは、実はとても近いところにいる。同じ警察内部に侵入し、普段はアンリ巡査として警部の下で働いているのだ。それもすべては、警察の動きや情報を収集するため。警部は自分たちの手の内を、怪盗ジャック当の本人にすべて明かしてしまっている。

 でも、だから捕まえられないのか? というと、一概にそうとも言い切れない。結局最後は、警部の強すぎる、もはや恋心といっても差し支えない気持ちのせいで、捕まえられるチャンスをみすみす逃し続けている。

 正直にいえば、「警部が泥棒のことを好きすぎて捕まえられない」という設定自体はおもしろいが、それだけで何話もストーリーを描いていけるとは思わなかった。きっとどこかでダレるだろう、お決まりの展開が繰り返されるのだろう、と思っていた。しかし、この作品、とどまるところを知らない。

 心臓発作により一時的に「死んだ目の錦田」状態に戻る現象や、普段の警部に対してつっけんどんな態度をとりながらも、誰よりも自分のことをわかってくれていることに喜ぶアンリなど、さまざまな要素が絡み合いながら、毎回まったく違う様子のふたりの「追いかけっこ」を見せてくれる。

 腕は確かなのに怪盗ジャックの前ではヘタレな警部と、普段はツンツンしてるけれど少しずつ警部に心を開いていく怪盗ジャック(=アンリ巡査)のふたりの日常。なんというか、最後のハッピーエンドは「捕まる」じゃなくて「くっつく」なんじゃないの、と思ってしまうほどのラブコメ感。

 ストーリーが進むほどおもしろさも萌えもヒートアップしていく本作に、読んでいるこちらもドキドキが止まらない!

文=園田菜々