田舎の寿司屋になぜ外国人がやってくるのか? ホリエモンも認めるすごい店

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公開日:2021/6/11

自己流は武器だ。 私は、なぜ世界レベルの寿司屋になれたのか
『自己流は武器だ。 私は、なぜ世界レベルの寿司屋になれたのか』(渡邉貴義/ポプラ社)

 今、世界から注目されている寿司屋がある。福岡県の戸畑にある「照寿司」だ。戸畑は北九州市にあり、とても交通の便がよいとは言えない場所。それでも、完全予約制のこの店に、海外からもお客さんがやってくる。いったい、何が彼らを惹きつけるのか。

 本書『自己流は武器だ。 私は、なぜ世界レベルの寿司屋になれたのか』(渡邉貴義/ポプラ社)は、照寿司の三代目・渡邉貴義氏が書くビジネス書。地元で愛される田舎の寿司屋だった照寿司が、「世界一有名な寿司屋」と呼ばれるまでになった道筋を語っている。実業家の堀江貴文氏も絶賛する照寿司の戦略は、伝統的な寿司屋の枠を大きく超えていた。ポイントは、「体験」と「SNS」だ。

ただの寿司屋ではない、「寿司オペラ」だ!

 高級な寿司屋と聞いて思い浮かぶのは、どんな空間だろうか。カウンターが並び、寡黙な大将が寿司を握る。お客は騒いではダメで、出されたお寿司を静かに味わって食べる。だが、こうした日本流の寿司屋は、外国人からすると「プリズン寿司」なんて言われるらしい。牢屋に入れられているようで、つまらないというわけだ。しーんと静まりかえらずに、おいしいものをワイワイ食べたい。たしかに、わかるような気がする。

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 照寿司は、海外からのお客さんが多い。その理由のひとつが、「寿司オペラ」と自称する体験型の提供方法だ。コースは2時間で、おつまみと寿司をおまかせで出す。寿司は乾かないように手に直接渡すのだが、渡邉氏のファンサービスはすごい。お客さんが楽しく写真を撮れるよう、ゆっくりポーズをとりながら置くのだ。単においしい寿司を食べに行くだけでなく、劇場でオペラを見るように、照寿司に来ることを特別な体験にしている。

田舎の店はメディアに取り上げられない そこで選んだのは

 テレビや雑誌が取り上げるグルメは、たいがい都内であることが多い。そのお店に行ける人の数が多いし、取材もしやすいから、当たり前と言えば当たり前だ。その結果、地方のお店はなかなか全国放送で取り上げられることがなく、発信力を持つのがむずかしいという。照寿司もまた、地方にある寿司屋だ。なぜ、全国どころか世界からお客さんが集まるのだろう。

 照寿司が広く知られるようになったきっかけは、FacebookやInstagramなどのSNSだ。「照寿司 インスタ」と検索すれば、投稿のインパクトに驚くだろう。渡邉氏自らが前に出て、食材や寿司とともに写真に写っている。なんと表現すればいいだろう…とにかく、絵力がすごい(笑)。寿司職人は出しゃばらないのが美徳と思われがちだが、これも業界の常識を覆した。照寿司=渡邉さんで認識されているため、お店を訪れた方が「本物だ!」と反応されることもあるという。寿司を提供する前から、お客さんを楽しませている。

「体験」を提供し、SNSで広がっていく。流行りのスイーツ屋であれば珍しいやり方ではないかもしれないが、伝統を重んじる寿司の世界でやり切ったことがおもしろい。本書では、先代から引き継いだお店を大胆に変えた決断のほか、堀江氏との対談も収録している。「寿司文化が世界でもっと認められるにはどうすればいいか?」など刺激的な議論が交わされているから、こちらも読んでほしい。前例や常識を打ち破るヒントがあるはずだ。

文=中川凌

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