六十歳なんてまだまだ若い! 還暦三人組が町内の悪を斬る、痛快活劇

小説・エッセイ

公開日:2012/8/21

三匹のおっさん

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:有川浩 価格:750円

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60歳になり、会社は定年、息子夫婦からは赤いちゃんちゃんこを送られ、「おじいちゃん、これまでお疲れさまでした、あとはゆっくり…」と労われる。いやいやいや、ちょっと待て。還暦くらいで年寄りの箱に蹴り込まれてたまるか! おれたちゃバリバリの現役だ! かくして還暦3人組による町内自警団が結成された──。

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いやもう楽しくて仕方ない。会社を定年退職後に近所のゲーセンに再就職した剣道の達人・キヨさん。居酒屋の元亭主、柔道家のシゲさん。そして腕っ節は弱いものの機械いじりは天才的な町工場の経営者、ノリさん。そんなアラカン(アラウンド還暦)幼なじみ3人組が町内の事件をばったばったと解決する。ゲーセンでの不穏な動き、小学校の飼育小屋で起きた事件、ちかん事件や詐欺事件などなどに、キヨさんシゲさんの腕っ節とノリさんの頭脳、そして何より3人の人生経験で立ち向かう痛快活劇だ。還暦必殺仕事人、と言ってもいい。ホントにもう、ムチャクチャしよるなあ、このオッサンたち!

しかしそれだけじゃない。この3人に加えて重要な登場人物が2人いる。キヨさんの孫息子・祐希とノリさんの愛娘・早苗だ。祐希はデニム腰履きチェーンじゃらじゃらのイマドキの高校生。早苗ちゃんは早くにお母さんを亡くして主婦仕事をやってるまじめな高校生。このふたりが3匹のおっさんに巻き込まれたり手伝ったりするという趣向。いろんな事件に出会う中で、祖父と孫、父と娘という家族のつながりや関係、そして近所付き合いというものが少しずつ語られていく。

たとえばキヨさんは、祐希のイマドキのファッションがどうにも気に入らない。もっとちゃんとしろ、と思う。けれどその一方で祐希もまた、祖父の「ポロシャツをズボンに入れてベルトを締める」というファッションはどうよ、と感じている。ジジィ扱いするなと言う割に、そのジジィファッションは何だよ、と。結局ふたりともそれぞれの〈世代基準〉が違うだけで、同じことを考えているわけだ。ジェネレーションギャップなんて、つまりはこういうことなんだよなあ。

家族やご近所という、世代の違う人々が少しずつ歩み寄り、理解しようと努める。言い争いやけんかになることもあるが、年長者の経験や知識を尊重し、若者の感性に耳を傾けることで、コミュニティの楽しさは何倍にも膨らんでいくのだ。笑って泣けて拍手喝采の必殺仕事人的面白さに加え、家族っていいな、幼なじみっていいな、と思わせてくれる1冊である。


電子書籍でも須藤真澄さんの扉絵をすべて収録。1話ごとに趣向を変えた、細部まで凝りに凝ったイラストを楽しめ!

巻末には、故・児玉清さんがラジオで本書を紹介したときのトークも収録。