【最新巻レポ】世界的な社会現象を巻き起こした『進撃の巨人』最終巻が発売! 主人公エレンはダークヒーローだったのか? その本心がいよいよ明らかに

マンガ

更新日:2021/6/17

※本記事には最新巻の内容・ネタバレが含まれます。ご了承の上お読みください。

進撃の巨人34
『進撃の巨人34』(諫山創/講談社)

 今や世界中で読まれている『進撃の巨人』(諫山創/講談社)。既に世界での累計発行部数は1億部を突破し、ハリウッドでの映画化も決定している。

 連載開始は「別冊少年マガジン」創刊号(2009年10月号)だった。当時、新人漫画家だった諫山創さんの手によって、世界規模の社会現象が巻き起こるなんて、誰が想像しただろう。

 あれから11年以上の月日が流れ、「別冊少年マガジン」2021年5月号をもって完結した本作。

 連載が開始したのはセカイ系と呼ばれる数々の作品がヒットしたゼロ年代の終わりで、完結したのが2020年代のはじめだということも、本作がひとつの時代を築いた証明のように思う。

 2010年代はまさに「進撃」の時代だった。アニメ化、実写映画化、スピンオフ作品のヒット……功績を数え上げればきりがない。

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 巨人が人を食らうディストピアを生き、巨人と闘う人間たちを描いた本作の序盤は、悪を倒すために正義が奮闘するという、少年漫画らしさにあふれた作品だった。ところが人を食らう巨人が本当に純粋な悪なのか、正義とは、が問われた中盤以降、本作は少年漫画の範疇を超えたように思う。

「前半のあの場面は伏線だったのか」

 そんな驚きの声がインターネット上にあふれたのも、その頃からだ。

 巨人たちはどこから発生し、なぜ知性を持った「九つの巨人」と知性を持たない「無垢の巨人」がいるのか。その謎が明らかになり、正義を貫く単純だけど熱血な主人公だと思い込んでいたエレンがじょじょに何を考えているのかわからない人物に変化していく。

 彼は人の道に外れた行いで目的を遂行するダークヒーローだったのだろうか。読者はそんな疑問を抱えたまま、最終巻(34巻)のページをめくる。エレンは“始祖の巨人”の力を使い、歴代の「九つの巨人」を蘇らせ、かつての仲間と対峙していた。

“捨てなきゃ何も始まらない
もう…甘い希望は捨てなければならないんだ…“

 最終巻の序盤、エレンの幼なじみのアルミンは、そうつぶやく。

「何も捨てることができない人には 何も変えることができないだろう」

 これは7巻で、仲間を犠牲にしても巨人に勝とうとする当時の調査兵団団長・エルヴィンを見て、アルミンが尊敬の気持ちをこめて言った言葉だ。アルミン自身が、その言葉と真正面から向き合うことになってしまった。

 彼の言う「甘い希望」とは、パラディ島以外に住む人類を壊滅させようとするエレンの凶行を止め、なおかつエレンを死なせないことを指す。

 34巻までに、たくさんの人が死んだ。完全な悪だと断定できる人物はほとんどいなかった。そして、みんな死にたくて死んだわけではない。生きたいと強く願いながら命を落としたのだ。死の恐怖や苦痛が非常にリアルに描写されているのも本作の特徴である。

 エレンが操る歴代の「九つの巨人」の中には、ライナー(鎧の巨人)が「相棒」と呼んでいたベルトルト(超大型巨人)もいる。ライナーとベルトルト、そしてアニ(女型の巨人)は共にパラディ島に潜入し、人が住む街の壁を壊した。本作をまだ読んだことがなくても、壁から超大型巨人の顔が見える場面だけは知っている人も多いだろう。パラディ島の悲劇の始まりを作った面々だ。

 その後は敵であることを隠し、エレンたちの同期として戦っていた三人。敵だと判明した後、アルミンはベルトルトを食べ、超大型巨人を継承した。そして今、ライナーとアニは、アルミンたちと同じ目的を持ち、人類を救うため共に戦っている。能力を持つ人物を捕食し継承されてきた「九つの巨人」。歴代の巨人たちの数ははかりしれない。

 勝つ術はもうないのかと思ったとき、突然、操られているはずのベルトルトが、意思を取り返したかのように生前思いを寄せていたアニを救う。同じくライナーたちの仲間で、既に死んでいるはずのマルセル、ポルコ(どちらも顎の巨人)も動き出す。

 彼らは捕食された後、エルディア人がみんな繋がっているという「道」で眠りについていた。しかし危機に瀕して「道」にたどり着いたアルミンの説得もあり、自らの意志で動き出したのだ。アルミンは超大型巨人の力で爆発し、エレンにとどめを刺したかに思えた。

 しかしエレンは生きていた。彼はエルディア人たちを巨人化させる能力がある。この能力を使い、戦場にいるライナーたち「九つの巨人」を継承する者と、種族の異なるミカサ、リヴァイ以外のエルディア人を自我のない無垢の巨人に変えてしまう。この中にはエレンが大切にしてきたはずの同期、ジャンやコニーも含まれていた。

子どもの頃から戦士候補生として厳しい訓練を受けてきたライナーは、鎧の巨人の姿で自問自答する。

“おれたちは… どうすれば報われるんだ?”

 戦えるのは九つの巨人の能力を持つアルミン、ライナー、ピーク(車力の巨人)、ファルコ(現在の顎の巨人)である。そしてエレンの首を斬れるのは、ミカサとリヴァイだけだ。

 エレンを一途に想うミカサは、エレンを守るために命をかけて戦ってきた。それなのに、彼を倒さなければ人類や仲間たちを救えない。彼女は激しい頭痛と共に、涙を浮かべ思う。

“…帰りたい
私達の家に…
帰りたい…“

 ここで場面は変わり、エレンとミカサ、そしてエレンとアルミンの対話が始まる。戦闘中ということを忘れたかのような、穏やかな場面だ。エレンの本心はアルミンとの会話で明らかになり、戦闘は衝撃的な形で終わりを迎える。

 ラストシーンは、「別冊少年マガジン」掲載時から大幅に加筆されている。人によって解釈がさまざま生まれそうな内容で、雑誌で既に最終回を読んでいる人たちも、最終巻で再び結末について考えるきっかけを得られるだろう。

 そこにあるのは、希望なのか、それとも絶望なのか。

 ただひとつ言えるのは、『進撃の巨人』は、このラストのためにあったということだ。

 11年以上の年月をかけて、最初から最後までリアルタイムで読み続けてきた人、途中で読むのを中断した人、まだ読んだことがない人。たくさんの人がこの最終巻を手にとることになるだろう。

 最後まで見届けて、ラストシーンの意味を考えてほしい。本作が壮大な物語であったという事実が、読み終えてもなお心に迫ってくるはずだ。

文=若林理央

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