日常には「謎」がたくさん! ふたりの男子図書委員の推理と友情が心地よいビターな青春ミステリー

文芸・カルチャー

公開日:2021/6/18

本と鍵の季節
『本と鍵の季節』(米澤穂信/集英社文庫)

 青春といえば、よく「甘酸っぱいもの」と形容されるが、本当はもっと爽やかでほろ苦いものではないだろうか。米澤穂信氏による『本と鍵の季節』(集英社文庫)は、放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む6編の連作短編ミステリー。まさに青春の爽やかさとほろ苦さが感じられる作品だ。

 米澤穂信氏といえば、『氷菓』をはじめとする「古典部」シリーズや「小市民」シリーズなど、高校生の青春を描いた日常ミステリーで知られるが、本作もその系譜を継ぐ作品。扱われる謎は、日常ミステリーの枠からちょっぴりはみ出したものだが、日常のすぐ近くにあるもので、読後感はなんとも切ない。謎を解き明かす楽しさを感じさせつつも、ビターな青春の味わいも感じさせるのは、米澤作品ならではの魅力だろう。

 主人公は、高校2年生の堀川次郎。図書委員の彼は、利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門と当番を務めている。松倉は背が高く顔もよく、よく笑う一方、ほどよく皮肉屋な良いやつだ。まだ知り合ってから日は浅く、いつも一緒にいるような友人関係ではないが、ふたりの相性は抜群。堀川はどういうわけか謎めいた頼まれごとをされることが多く、松倉とともにそれに挑むことになる。

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 ある時は、図書委員を引退した先輩女子から「亡くなった祖父が遺した開かずの金庫の鍵の番号を探り当ててほしい」と頼まれ、またある時は、図書委員の後輩男子から「テスト問題を盗もうとしたと疑われている兄の冤罪を晴らしてほしい」と頼まれる。さらには、「自殺した友人が最期に読んでいた本を知りたい」と、無茶な依頼をされることもある。堀川と松倉のまわりにはとにかく謎がたくさん。そして、彼らは、それらを鮮やかに解決していくのだ。次第に明らかになる真相に、「そこに伏線があったのか」と鳥肌が立つこと間違いなし。「日常の謎」と油断していると、思いがけない展開にハラハラさせられる場面もある。

 堀川と松倉は、どちらかがホームズ役でどちらかがワトソン役というわけではない。どちらも優れた洞察力・推理力を持ちながらも、完璧ではない。堀川は人の言うことを何でも素直に聞いてしまうが、松倉は疑り深く、それぞれが疑問に思う点は異なる。互いがああでもないこうでもないと言い合いながら謎を解き明かしていく姿がなんとも面白い。そして、その様子をみていると、ふたりと一緒に謎を解いているような気分にさせられてしまうのだ。

 ふたりの関係は微笑ましい。気恥ずかしくて言葉に出さないけれど、互いに認め合っているのが、会話の端々から感じられ、羨ましくさえなる。だが、ふたりの関係はそれだけでは終わらない。松倉の家族に関する謎を解き明かそうとするクライマックス、彼らのやりとりからますます目が離せなくなってしまった。

 図書委員コンビのこの青春ミステリーに、米澤作品の元々のファンも未読の人も引き込まれること間違いない。ここには青春が描かれている。このビターな読後感はきっとあなたの胸にもじんわり染み渡るに違いないだろう。

文=アサトーミナミ

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