大人も子どもも楽しみながら思考力と論理力を培う『科学絵本の世界100』

文芸・カルチャー

公開日:2021/6/18

科学絵本の世界100
『科学絵本の世界100』(別冊太陽/平凡社)

 書店で子どもに読ませようと絵本を探そうとしても、どんな絵本を選んでよいものか悩む大人は多い。なぜか自分が子どものころに感じていた、絵本を開くとページいっぱいに見知らぬ世界が広がっていく、あのドキドキやワクワクを忘れてしまっているのだ。

 別冊太陽『科学絵本の世界100』(平凡社)には、あのドキドキワクワクを思い出させてくれる絵本が詰まっている。

 ページを開くと、数々の絵本の見開きがカラーで色鮮やかに目に飛び込んでくる。目次を見ればただの絵本のカタログ本ではないことがわかる。

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 本書は、「知ってる? 知ってるよ」「自分のこと」「はてな? の心」「こんにちは、みんな」「行ってみたい、見てみたい」という5つのテーマに章が分かれ、例えば、1章「知ってる? 知ってるよ」では、“不思議”を扱った絵本を紹介。

『科学絵本の世界100』より

 生きているうちに心臓が脈打つ回数は、ゾウとネズミ、そして人間も同じという不思議を感じる絵本『絵ときゾウの時間とネズミの時間』(本川辰雄:文、あべ弘士:絵/福音館書店)や、「うつくしい 絵をかんじとれる ひとに なってください」というかこさとし氏の言葉とともに、“美しい”を感じることの大切さを教えてくれる『うつくしい絵』(かこさとし/偕成社)などが紹介されている。

 2章「自分のこと」では、未来に向かって歩いていく際の自分自身について知る絵本を紹介。

 その中で、谷川俊太郎氏の『わたし』(長新太:絵/福音館書店)は、子どもが成長するにしたがって、家の中だけだった世界が家の周辺へと広がり、社会を実感していく中で、自分と社会を相対的に考えることができる絵本だ。

 また、今とても重要とされている「食育」をテーマにした『食べているのは生きものだ』(森枝卓士:文・写真/福音館書店)は、大人もぜひ読んでほしい一冊だ。世界中の市場や家庭で食べられている生きものたちをたくさんの写真とともに紹介した本書は、自分が食べているものが「命」であることを教えてくれる。食事の際の「いただきます」「ごちそうさま」という言葉がとても大切なものだったと改めて感じることができる。

 4章「こんにちは、みんな」では、生きものを知る絵本を紹介。

『仕掛絵本図鑑 動物の見ている世界』(ギョーム・デュプラ:著、渡辺滋人:訳/創元社)では、イヌやチンパンジー、リスの目に映る景色がどのように見えているかを仕掛けとともに再現している。まるで自分が動物になったかのような気持ちにさせてくれる本書は、人間だけでなく、動物への共感も学べる絵本だ。

 そして“死”について避けることはできない。『しでむし』(舘野鴻:作・絵/偕成社)では、赤ちゃんねずみを生んだ母ねずみが死に、虫たちがあつまって死んだねずみを分解し、土に返ってしていく。細やかな絵によって自然界の食物連鎖、生きものたちの儚い一生が語られていく。

 このように、知らない世界への好奇心を掻き立てる絵本ばかりが100冊紹介されている。

 子どもにとって見るものすべてが未知のもので溢れている。そこには不思議なことばかりだが、楽しむ方法がひとつだけある。それが好奇心だ。そして好奇心は考えることに繋がる。

 科学は「不思議」を大切にしていた。

 生命誌研究者の中村圭子氏の序文のこの言葉はこう結ばれる。

「科学絵本は」日常の「不思議」から出発して自分で考える力を引き出す大切な存在なのです。

『科学絵本の世界100』は子どもの世界を広げ、考える手伝いとなる絵本が詰まっている永久保存版の一冊なのだ。

文=すずきたけし