【次にくるマンガ大賞 2021特別企画】過去の受賞作を振り返り!シュールだけどエモい!教師と生徒の学園ラブコメ『村井の恋』

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更新日:2021/6/21

 ユーザーから「次にくる」と思うマンガを募集し、そこでノミネートされた作品から投票によって大賞を決める“ユーザー参加型”のマンガ大賞「次にくるマンガ大賞」。7回目となる今年のノミネート作品が出そろい、6月18日(金)から投票がスタートする。ぜひ参加して推しの作品を応援しよう! ドキドキの結果発表を待つ間に、過去の受賞作品を振り返ってみてはいかがだろう。本記事では2019年にWebマンガ部門で第2位を獲得した『村井の恋』(島順太/KADOKAWA)を紹介!

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 物語は愛の告白が書かれた進路調査票から始まる。そこには「田中先生と結婚したい。」とだけ書いてあった。呼び出された村井(17)はマジ顔で「百年の恋、千年の恋です」と告白。このロン毛の高校生を、教師である田中(24)はもちろん一蹴する。

「あなたの成績ならいい大学を狙える。ふざけてると親御さんを呼ぶ」と正論をかましたあと「(三次元における)黒髪ロン毛って恋愛対象外なの」とかすかに特別な感情を露わにした。そのとき田中が思っていたのは「はよ帰宅してゲームで推しを愛でたい」だった。そう、彼女は乙女ゲームオタクなのだ。翌日、金色の短髪にしてきた村井を見て田中は白目になる……。

 目の前にいる村井は、田中の愛する乙女ゲー「戦国恋絵巻」での最推しキャラ・春夏秋冬(ヒトトセ)に激似であった。彼女は金髪を注意しようと呼び出し、動揺しながらも「先生をからかうのはやめなさい」と言う。「からかってません、本気で好きなんです」と彼はマジ顔で再び告白。思わず「いい加減にしなさいヒトトセ君」と口にしてしまう彼女の中には“やっちまった死のう。”という意識。そして“アリかナシか”いう次元を通り越し、推したい衝動が芽生える。この日から田中は村井を見ているだけで理性が飛びそうになることを抑えるため、あえて校内ではコンタクトを外すようになった。

 村井は、最初はそんなこととはつゆ知らず、会うたびに「好きです先生」を繰り返す。田中はそのたびに三次元に現れた推しに心をかき乱されていき、油断して近づきすぎて失神までしてしまう。

 目も合わせてくれず、校内で過剰に避けられ、2人きりになると田中の具合が悪くなる、この状況に村井は悩む。そんなとき、幼なじみで双子のオタク姉妹・仁美と悠加が、今の髪形の村井はヒトトセというゲームキャラに激似だと教えてくれる。そしておそらく、田中の様子がおかしくなるのは、ヒトトセが彼女の最推しキャラであり、動揺しているのだと予測した。そこで村井は、仁美と悠加に「戦国恋絵巻」を借りてプレイし、架空のライバルであろうヒトトセと向きあい、彼から学びを得ると決意。それからの田中へのアプローチは変わっていく。

 田中は自分の感情が整理できていない。村井のルックスは当然好みだろうが、彼女は恋人がいたこともなければ、過去さまざまなことがあり、友人さえもいない。このように慕われた経験もなく、とにかく混乱し続けていた。忘れてはいけないのが、2人は教師と未成年の生徒なのだ。

 ある日、田中は自分の感情が村井にバレていたことに気付く。いわゆる同人誌即売会でヒトトセのコスプレをする村井と会うのだ。湧き上がったのは恥ずかしさと怒りだった。「全部知っていて、散々からかって楽しかったでしょうね」。キレた彼女は村井にモンゴリアンチョップ(ゲーム内でプレイヤーがヒトトセにくらわすプロレス技)を決め、立ち去る。物語はここから一気に動き出すのである。

 村井は“様子がおかしいキャラクター”とされている。しかし登場人物はほぼ全員様子がおかしい。皆何がしかに猪突猛進しており、“普通”なキャラなどいない。そんな世界でシュールなギャグを交えながら、しっかりエモさが湧き出しているラブコメだ。

 本作はこの春に5巻が出たばかり。Web連載からの単行本化というトレンドにのったものではあるが、その単行本には登場人物たちを深く掘り下げた描き下ろしも収録されているので、ぜひチェックしてほしい。

文=古林恭