歌舞伎町イチ、癖がすごいゲイバー店員・カマたくが、煮え切らないお悩みを一刀両断!

文芸・カルチャー

更新日:2021/6/22

お前のために生きてないから大丈夫です
『お前のために生きてないから大丈夫です』(カマたく/KADOKAWA)

 歌舞伎町いち癖が強いと言われるゲイバー店員のカマたく氏が、2冊目の著作『お前のために生きてないから大丈夫です』(KADOKAWA)を上梓した。カマたく氏は幼い頃に父親からDVを受け、中学生の頃から16年間売春をさせられていたという。壮絶な人生である。だが昨今カマたく氏は、そうした実体験をYouTubeなどで語り、バズることもしばしば。Twitterのフォロワーは126万人を超え、インフルエンサーとしてその発言は多くの人に注目されている。

 そんなカマたく氏の『お前のために生きてないから大丈夫です』は、書名こそ挑発的だが、中身はQ&A形式のオーソドックスな悩み相談。人生の酸いも甘いも噛み分けてきたカマたく氏が実体験を活かし、ブルーにこんがらがった相談者の悩みをひとつずつときほぐしてゆく。恋愛、家族、将来、人間関係など、寄せられた相談は多岐にわたるが、ここでは実践的ですぐ使えるものとして、労働に関する相談を挙げよう。例えば、以下のような質問がある。

コロナ禍で失業して、(仕事を)探している状態です。新しい仕事を探そうにも自分ができそうなものが見つかりません。選ぶな、甘えるなと周りからは言われますが、自分ができること・できないことは自分が一番わかります。もし採用されたとしても、きっとできなくて、すぐに辞めてしまうと思います。このまま自分ができる仕事を探して見つけるか、無理にでも自分を鼓舞してできない仕事を受けるか。どうしたらいいと思いますか?(22歳・女性)

 カマたく氏は上記の悩みに、この人の「できない」は「やりたくない」とイコールではないかと喝破する。単にどの仕事も大変そうだからやりたくないし、頑張りたくないだけではないか――。そんな相談者の深層心理をカマたく氏は炙り出す。仕事を始める前に全部できないと決めつけるのは早計だ、とカマたく氏は言う。

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 類似した相談で、風俗で働く女性が5年間一般職で働いたことがなく、アルバイト経験もないから現職を辞められない、というものがある。だが、これも最初から向いていないと決めつけすぎのパターン。0か100かという思考で判断することの不毛さも説く。これは後述する「認知の歪み」の極端な例だ。

 カマたく氏は実際にやってみたら「これ結構得意かも」「別に好きじゃないけど向いている」という仕事がきっとあるはずだと言う。かくいうカマたく氏は「トマトを袋に入れる仕事」が大得意だったらしいのだが、まさかそんなこと、やってみなかったら気づくこともなかったと言う。そして、そうした潜在的な可能性が誰にでもあるはずだと諭すのだ。

 仕事関連の悩みでは、「お客さんに満足してもらえる対応がしたい」という、申請書の窓口担当からの悩みもある。これに対して、長く接客業をしていたカマたく氏は卓見に富んだ回答を示す。年上の人にはフレンドリーに、年下や年が近い人には丁寧に接するといい、というのだ。なぜなら、年配の人は比較的時間に余裕があるから、蛇足も含めて話すのが好きだという人が多い。20~30代の若い人は逆にドライで、雑談などは要らずやることさえやってくれればいい。そういう傾向の違いがあるという。本書を読むまで筆者は逆だと思っていた……。

 クレーマーの対処法についての相談への回答も独創的だ。憤るクレーマーに対して「分かります! 私もそう思うんです!!」と共感し、なんなら相手を超える声量で言う。すると相手も拍子抜けして、急に落ち着いたりするらしい。試しに遊び感覚でやってみるといいだろう、とカマたく氏は言う。確かに、自分が客の立場だったら思わず脱力してしまうはずだ。

 なお、カマたく氏はマニュアル通りの接客に懐疑的だ。というのも彼、15歳の時にフードコートで焼きそばやたこ焼きを売るアルバイトをしていたのだが、今で言うところの客への「神対応」で賞賛されたという。4年ぶりに訪れた客から「焼きそば、紅生姜多め青のりなしもやし抜き箸二膳マヨネーズ袋2つ」と注目されたのだが、カマたく氏はそのカスタマイズを完全に覚えていて、即座に注文通りの焼きそばを出せたそうだ。この対応がフードコートのあるショッピングモール全体への高評価につながり、カマたく氏は輝かしい店員として誉められたそうだ。

 無論、誰もが彼のような対応ができるわけではない。慢性的に悩み続けている人が自分に自信を持つのも並大抵のことではないだろう。だが、克服のための方策はある。まずは、カマたく氏が言うところの「0か100か」や「自分にはこの仕事は向いていない」という極端な思考パターンから抜け出すことが重要だ。

 正確に現状を把握できない時、人は「全か無か」「一般化のしすぎ」「すべき/せなばならない思考」といった「認知の歪み」に陥ってしまう。そこから脱却する術こそが、本書を通じてカマたく氏が一貫して説いていることであり、彼の体験談から学べることは決して少なくないはずだ。

文=土佐有明

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