どちらかではなく両方と二股交際&同居!? ツッコミどころ満載の『カノジョも彼女』がラブコメ界の常識を覆す!

マンガ

公開日:2021/6/21

カノジョも彼女
『カノジョも彼女』(ヒロユキ/講談社)

「二股して良かったっていつか言わせてみせるから!!」直也は小学生から告白し続けた咲と、高校で遂に付き合う。だがそれからすぐに美少女・渚に告られ、言ったのが冒頭の台詞だ。

『カノジョも彼女』は『アホガール』(講談社)の作者・ヒロユキ氏の最新作。2021年7月からのTVアニメ化も決まっている。本作のキャッチコピーである「感覚アップデート・ネオスタンダード・ラブコメ」とは?

複数ヒロインのラブコメ 最大のテーマに正面から結論を出した!?

 マジメで自分の気持ちに正直な高校1年の向井直也(むかい なおや)は、幸せの絶頂にいた。小学校1年から月一で告白し続けた幼なじみの佐木咲(さきさき)と、遂に付き合い始めたのだ。咲も「(人前だろうと)好きな人には好きと大声で言ってしまう」直也のテンションの高さに「あーもう、どんときなさい!」(照れ)とようやく慣れてきていた。

advertisement

 そんな2人の前に突如現れたのが水瀬渚(みなせなぎさ)。彼女は直也に「あなたが好きです! 付き合って…もらえますか…?」と告白する。

 渚は3カ月間にわたり身体を鍛え、スタイルUPに努めたと言い、1日8時間の料理の練習の成果だという激ウマ弁当を差し出す。

 頑張り屋でまっすぐで健気で魅力的な美少女。だが直也は自分には恋人がいると伝えた。しかし「1回フラれたくらいで諦めません! また告白しに来ますね!」と渚。彼は涙を流しつつ「彼女(咲)を好きで一生大切にしたい、だが水瀬さんを魅力的に思ったのも本心」と言いつつ渚に提案する。

許されるなら二股していいか…一緒に彼女に聞きにいかないか!?

 3人は会い、直也は咲に真正面から「水瀬さんは魅力的。こっそり二股はできないから正々堂々二股したい!」と言う。咲のグーパンチが炸裂!

「直也には私がいればいいでしょ! あなた(渚)も二股なんていいの?」という咲に、渚はまっすぐな目で「直也くんは咲さんと別れない、二股してもらえないとフラれるだけなのでOK」と言う。美少女好きの咲は、ほだされかかるが「イヤなものはイヤ」と口にする。だが……。

この場で咲ちゃんに振られても当然とも思う!!

それでも水瀬さんにも…咲ちゃんにも…
二股して良かったっていつか必ず言わせてみせるから!!

 と、土下座しながら叫ぶ直也の勢いに押される咲は「言わせられるもんなら…ムリだと思うけど!!」と言うのが精一杯。渚は嬉しそう。さらに彼は、続けて「ありがとう頑張るよ、2人に二股を良いと感じてもらうためにお互いを深く知ろう。今日から3人で暮らそう」とも提案。直也の両親は仕事の都合で家を空けているのだ。渚が登場したその日、いきなりの同居生活が始まった。

 ツッコミどころ満載&ハイテンポな展開、ついてこられそうな人だけ続きを読んでほしい…。

これがネオスタンダード? 正直すぎるために起こるカオスを楽しむ新しいラブコメ

 咲は美少女とゲームが大好き。正直、普通に性交渉にも興味津々で、妄想しがち。(自分より)ナイスバディな渚をめちゃめちゃ気にしているが、このライバルが自分好みの美少女のため、だんだんと仲良くなっていく。

 渚は「二股でも直也くんと付き合える嬉しさが上回る」「咲さんが本気で二股が嫌になればフラれるのはきっと私、この限られた期間に頑張る」と謙虚。……ではあるが積極性は咲より上だ。天然でまっすぐにグイグイいく。咲曰く“ドスケベ”である。

 さらに人気動画配信者・星崎理香(ほしざきりか)ことミリカが登場。たまたま3人の関係を知り、最初は軽く「2人よりかわいい私も彼女になってやる」と言うが「いくらなんでも三股はできない!! 人として!!!」と誠実な? 直也にフラれて本気になる。

 そして咲の親友で二股関係の解消を訴える、桐生紫乃(きりゅうしの)も直也に複雑な感情を抱いていて……。

 複数ヒロインが登場し同居するハーレム風味のラブコメの中には、結果として複数ヒロインと結ばれる作品もあれば、運命の1人を選択する作品もある。本作はギャグ度の高いラブコメではあるものの、あくまで「2人のヒロインとの理想の決着は二股である」という結論が最初に明示されている。

 優柔不断ではなく浮気でもない、真正面からの二股交際物語。それを成立させているのがブレない主人公、直也のマジメさと正直さ。「正直エッチ的なことはしたいが、二股は俺の都合の押し付け、これ以上咲ちゃんの嫌がることはしない。3人が良い関係を築くのが大切。オレたちの間でそういうのはなしにしよう」と心から言う直也。

 そのバカ正直さに、咲はモヤモヤし、渚は素直に従いつつもイチャイチャする気まんまんだ。

 登場人物たちは皆、悩むことはあってもとにかく突っ走る。二股交際を楽しもうとする3人。彼らはボケているつもりはないが、読者もツッコミたくなる言動で物語は毎回カオス状態に。読んでいると感覚がズレてくる気がする……。だがこれこそ「感覚アップデート・ネオスタンダード・ラブコメ」なのだ。

 二股や不倫は、第三者が正義感をふりかざして叩きやすいトピック。だが正論を言えば、他人が怒ったり叩いたりする権利は一切ない。当事者たちが幸せならばそれでいいはずだ。直也はいつもの大声で言う「オレたち何も悪いことしてないのに」と。そう世間体以外、悪いことなど何もないのである。

 結末は果たして? というかはっきりした結末があるのだろうか。それを考えるのは野暮だろう。『カノジョも彼女』は3人で幸せになれるのか、ではなく3人で幸せになっていく物語なのだ、きっと。

文=古林恭

あわせて読みたい