地方都市の高校を舞台に豪快な悪の曼荼羅がひるがえる

小説・エッセイ

公開日:2012/8/24

悪の教典〈上〉

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:貴志祐介 価格:750円

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わけだわけだってやたらに並べて、べつに茶化してるのじゃないけれど、しかしどうなんだろう、そんなハイスペックな人間がいるんだろうか。地方のなんでもない高校なんかに。と、疑惑の雲がミリミリと読者の胸にわき上がってくるころ、次第にページの上には不穏な空気が漂い始める。

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蓮実はIQこそ人並みはずれて高いものの、他者への共感能力というものを持たぬ怪物だったのだ。感情がない。喜怒哀楽がない。ではどうやって日常をやりくりしているのかというと、ほかの人間がコミュニケーションする時の声や顔つきの変化をシミュレートして、物まねしているだけなのである。つまり、飛び抜けた知能で情緒をカバーしているのだ。分かりやすく言うと心がない。怖い、こういう人は本当に怖い。だって、人が死ぬことに絶えて心が動かない。もっといえば、人を殺すことにためらいがない。

そういうわけで、本書、上巻の終わりあたりから下巻に向かって心がない人ならではの、おっそろしい、血みどろの、油断できない、狂気じみた、目をふさぎたくなるようなことが持ち上がり、物凄い勢いで読者に迫ってくる。もちろん上巻だってつまらなくはない。なんせ出てくる人物がみんな頭のネジが緩んでるんである。すこぶる老獪な先輩教師。あろうことか生徒を誘惑する同性愛美術教師。男子生徒と保健室で関係をもつ学校医の女。も、それはなんというか外道の百花繚乱。

これ以上書くと、ネタバレになるので、本書と類似する作品の名をあげておこう。
パトリック・ジュスキント『香水』
ゴールディング『蠅の王』
綾辻行人『Another』
高見広春『バトルロワイヤル』
実在の事件『津山十三人殺し』
と、勘のいい人にはだいたい分かっちゃったろう。末尾に短ぁい洒落がくっついてるのもご愛敬。


物語は主人公の見る悪夢から始まる

主人公の愛車はダイハツ・ハイゼット

取り巻きの親衛隊からハスミンというニックネームで呼ばれる主人公

鍵が中途半端にかかった校舎の屋上。物語が進むにつれ、大きな役割を果たすことらになる

校内は、生徒へのセクハラ、あるいは淫行など、乱れた空気が淀んでいるらしい