なぜ才能のある彼らは27歳で死んでしまったのか? 孤独や痛みに寄り添う、KISSジーン・シモンズからのメッセージ

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公開日:2021/7/4

才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?
『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』(ジーン・シモンズ:著、森田義信:訳/星海社)

 ロックバンド「KISS」のコンサートは、いつもこの言葉から始まる。

“You Wanted the Best, You Got the Best. The Hottest Band in the World. KISS”
(最高が欲しいか? もう最高を手に入れてるぜ! 世界一熱いバンド……キッス!)

 KISSの創始者であり、ベースとヴォーカルを担当するジーン・シモンズ。顔に強烈なメイクを施し、鎧のような衣装を全身にまとってステージに立ち、斧型のベースをかき鳴らすソロでは吐血し、さらには火も噴いて、長い舌をベロベロと出すパフォーマンスでおなじみだ。そのジーンが「27クラブ」についての考察『才能のあるヤツはなぜ27歳で死んでしまうのか?』(原題は“27: The Legend & Mythology of the 27 Club”)を刊行し、話題となっている。

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「27クラブ」とは27歳で亡くなったミュージシャンやアーティストを総称するものだ(もちろんそんなクラブは実際には存在していない)。

 リストに名があるのは、伝説的ブルーズ・ミュージシャンのロバート・ジョンソン、ザ・ローリング・ストーンズの創始者であり元メンバーのブライアン・ジョーンズ、驚異のプレイで観客の度肝を抜いたギタリスト/ヴォーカリストのジミ・ヘンドリックス、魂を揺るがすパワフルな絶唱ヴォーカリストのジャニス・ジョプリン、詩人でもある元ザ・ドアーズのヴォーカリストのジム・モリソン、グラフィティアートで知られる画家のジャン=ミシェル・バスキア、ニルヴァーナのヴォーカリスト/ギタリストのカート・コベイン、ソウルフルな歌声を持つヴォーカリストのエイミー・ワインハウス、EDMを自在に操るDJのアヴィーチー……彼らは皆若くして名声を得て、揃ったように27歳で亡くなっている。

 なぜ彼らは若くして死んでしまったのか? その理由を同じショウビズ界で生きるジーンが、本書で一人ずつひもといていく。もともとアルコールやドラッグに依存してしまうこと、せっかく成功したのに鬱になってしまうことに疑問を持ち、「カッコよさもヒーロー性もない」というスタンスだったジーンだが、上記のアーティストを中心に、生い立ちや置かれた環境、心境の変化などをつぶさに検証することで理解を深めていく。そしていい曲や絵が書けたのはドラッグやアルコール、死への欲動が作用したのではなく、純粋に才能があったからで、若者たちは27クラブなんかに憧れてはいけないと何度も繰り返す。さらに「死は人を若くいさせてくれるわけではない。ただ、他人の心のなかで若いままにするだけだ」と、作り上げられた神話になど意味がないことも丹念に証明していく。

 孤独から味方がひとりもいなくなったように感じてしまい、自己破壊願望が頭をもたげ、死への欲動がふと忍び寄る……そんなときは、ぜひ本書の言葉を読んでほしい。この本には「死ぬな。命ある限り生きろ」というジーンからの強いメッセージがある。また本書の執筆を手伝ったジーンの子息ニックが、カリフォルニア大学のジェイムズ・ファロン博士(精神医学・人間行動学教授、解剖学・神経生物学名誉教授)にインタビューしているのだが、「なぜ成功したアーティストは若くして死が訪れるのか?」に対する科学的見地からの回答はぜひお読みいただきたい。また親世代にも強くお勧めしたい一冊だ(若かったときの思いや感情というのは、親になると往々にしてなかったことにしてしまうものだ)。

 最高の言葉が欲しいか? ならばこれを読め! ――世界一熱い、ジーンからのメッセージを!

文=成田全(ナリタタモツ)

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