希代のイジられタイトルに注目! 「やめるってよ」にあなたは何て返す?

小説・エッセイ

公開日:2012/8/26

桐島、部活やめるってよ

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 集英社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:朝井リョウ 価格:432円

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イジらずにはいられないタイトルだ。ツイッターはさながら桐島大喜利の様相を呈し、中でも私のお気に入りは「霧島、相撲やめるってよ」なんだが、トシがばれますね。いずれにせよセカチュー以来の、10年に1度レベルのイジられタイトルなのは間違いないが、実はこのタイトル、かなり深い。そして作品のヒットと無関係ではない。

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本書は5人の高校生が順に主役を務めるオムニバス小説だ。頼れるキャプテン桐島が突然退部を宣言したバレー部で、桐島のポジションの補欠だった小泉風助の物語に始まり、吹奏楽部の沢島亜矢、ソフトボール部の宮部実果(この章が実にいい!)、映画部の前田涼也、そして野球部ユーレイ部員の菊池宏樹、そしてボーナストラックがひとつ。彼らの視点で、彼らの高校生活がそれぞれ綴られる。持て余す自意識、クラスの中での自分のポジション、友人にも言えない家庭の悩み……とてつもなくドラマティックなわけではなく、ただ続く日常の中の、ほんの小さな事件。けれど彼らにはとても大きな事件が軽妙にビビッドに語られるのだ。

中でも唸ってしまうのは、目立つ生徒と地味な生徒が作る「カースト」だ。そうそう、不思議なことにこういうカーストが自然に存在するんだよなあ学校って。それが良い悪いではなくてね。集団内での自分の位置というものに敏感で、他人との距離を測ることに敏感だったあの頃。主人公はみな同じ学校の生徒なんだから当然校内ですれ違ったり会話したりするわけで、それを、両方の視点から紡いでくれるのだからたまらない。ひとつの場面で、異なる立場の高校生がそれぞれ何を思っていたか。読者だけが知り得る「俯瞰」を彼らに伝えたい、そんな思いに駆られてしまう。

……って、え? 桐島の話は?

さあ、そこだ。本書の主人公たちの中には、彼の退部が直接関わってくる人物がいる一方で、桐島の存在もよく知らないという人物もいるのである。けれど桐島を知らない子でも、実は彼が退部したことがまわりまわって自分の生活サイクルに影響を与えてたり、などという例が描かれるのから驚く。クラスの中で属するグループは違っても、入ってる部活は違っても、「やめるってよ」と教えられ「ふーん」としか返せない程度の関係であっても、それは断絶ではなく、どこかでつながっているということがしみじみと伝わってくる。そして、だから学校っておもしろいんだよなあ、ということも。

「桐島、部活やめるってよ」をイジったネタを口にするとき、オリジナルがそうであるように、それは誰かに向けて発せられる言葉のはずだ。相手が笑ったり、しらけたり、意味が通じなかったり。「霧島、相撲やめるってよ」というネタをツイートした誰かさんは、それを気に入って「とっくにやめてるよ!」と笑い合ってる家族がいることなど想像もしてないだろう。つながりって、そういうものなのかもしれない。本書は、そんなつながりをゆるやかに、そしてしみ込むように描いた物語なのである。


目次から各編にジャンプ可能。最終章の「東原かすみ~14歳」は文庫版で追加された1編。

各編の扉は書籍同様、小野啓氏の写真が使われている