人の失敗を喜んでもいい!? 働く人の悩みに答える「読む処方箋」

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更新日:2021/6/30

先生! 毎日けっこうしんどいです。元サラリーマン精神科医がみんなのモヤモヤに答えてみた
『先生! 毎日けっこうしんどいです。元サラリーマン精神科医がみんなのモヤモヤに答えてみた』(尾林誉史/かんき出版)

 会社の業務がリモートになり、人との接触が減って仕事が楽になったという人がいる一方、それはそれでストレスが溜まるという人もいる模様。普段は温厚な私の弟が、完全リモートに移行してから妙に怒りっぽくなったように感じ、何か対策をと思い探していて見つけたのが、『先生! 毎日けっこうしんどいです。元サラリーマン精神科医がみんなのモヤモヤに答えてみた』(尾林誉史/かんき出版)である。

 著者は、一般企業に就職したものの30歳で退社し、医科大学に入り直して精神科医となり、産業医としても働いているという変わった経歴の持ち主。著者がこれまでに受けた相談のうちベスト50の悩みに答える本書。項目のあいだに挟まれる、自身が産業医になるまでの経緯と志した理由を読むだけでも、悩みを抱える人の参考になると感じたし、面白くもあった。

産業医は「ゴキゲンで働く人を増やす」

 そもそも「産業医」とは何かというと、企業において従業員の健康管理を行なう医師のことで、従業員の人数が50人以上の事業者には専任する義務がある。一般の医師と異なるのは、病院で行なわれるような「臨床」行為、いわゆる診断や薬を処方したりはしない点。健康相談とか休職面談といった「面談」が特に重要な業務で、他に職場の衛生環境の確認や健康診断の結果のチェックなどを行なうという。病院での臨床なら「最優先するのは患者さんの状態ですが、患者さんの意向も無視できません」というのに対して、「産業医が優先するべき先は従業員だけでなく、企業なのです」と著者は述べている。

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 なにやら従業員に不利な対応をするのではと思われる人もいるかもしれないが、従業員の不調は企業の「戦力の不足」になるから、企業(の担当者)が従業員と「一人の人間として向き合う」ことができるよう橋渡しをし、良好な関係を築けるようにするのが役割だそうだ。またそのことは、著者の経歴とも関係してくる。

「見方が変わればすんなり解決する」悩みもある!?

「営業マンとしてはまったく契約が取れなかった」という著者が産業医という存在を知ったのは、体調を崩した後輩の面談に付き添ったとき。そこで産業医の仕事に感動して……ではなく、「本業ではないから、片手間のようなつもり」などとのたまって塩対応する医師と出遭い「怒りに打ち震えたから」だそう。しかし幸いにして著者は尊敬できる医師と出逢うことで、念願の産業医として働く場を得ることができた。

 また著者は営業マン時代、お客さんの「いい話し相手」で終わってしまい契約まで至らなかったのだが、悩みを抱えた同僚やチームのメンバーから相談を受ける中で「あ、僕、何時間でも人の話を聞けるのが強みだな」と気がついたともいう。産業医となってからは各企業に「産業医が必要でしょ?」と自身を売り込み、営業マン時代の経験が役に立ったのだとか。

心のバランスを大切に

 そんな著者が悩み相談に応じる基本姿勢は、「新たな視点の獲得」を手伝うこと。50項目の最初となる「人が失敗すると内心喜んでしまう」という悩みには、「口に出さなければまったく問題ありません」と回答している。倫理観や常識みたいなものを大事にするのは良いことだけれど、「いい人でいなければいけない」という思い込みが強すぎてはバランスが悪い。

 また、SNSで幸せそうな投稿を目にすると「他人の人生がうらやましい」と思ってしまう相談には、「SNSは他人の人生の“片鱗”が集まってるだけ」と説いている。著者曰く、SNSは不特定多数の片鱗の集合体であり、「あくまで一人ひとりの人生の節目に“ときどき”起きているものに過ぎない」のを「ハッピーエピソードの大群」と捉えてしまうから脅威に感じるのだ。著者自身は、一つひとつの投稿を流し読みせずに、じっくり読むようにして「それぞれの出来事の背景を丁寧に想像し、心からの共感や賞賛の気持ちを抱くよう、あえて自分に課しています」という。

「3つの密」ならぬ「3つのオフ」

 さて、私が知りたかったリモートワークの件だが、著者からは「“3つのオフ”を意識してみましょう」との提案があった。リモートワークの問題点と対処法は、大きく分けると以下の3つ。

1. 通勤・退勤という節目がないので仕事時間を区切りにくい→時間を決めてサインオフ
2. オンラインミーティングは意思疎通が難しい→身振り手振りを交えて「静止画モード」をオフ
3. テキストベースのチャットは冷たく感じがち→「なるべくテキスト“だけ”」をオフ

 いずれも、ネットが普及しだした当時からやっていた私からすると、リモートワークはむしろ当たり前のことで、人と会うのが苦手だったから苦痛に感じたことは無かった。とはいえ、多くの人が今までと違う生活を強いられている今、見方が変われば、悩みにもなるのかもしれない。

文=清水銀嶺

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