世界に猫は何匹いる? 宝くじの1等が2回当たる確率は? 「フェルミ推定」で地頭を鍛える方法

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公開日:2021/7/13

世界の猫はざっくり何匹? 頭がいい計算力が身につく「フェルミ推定」超入門
『世界の猫はざっくり何匹? 頭がいい計算力が身につく「フェルミ推定」超入門』(ロブ・イースタウェイ:著、水谷淳:訳/ダイヤモンド社)。

 一生のうち、宝くじの1等が2回当たる確率はどのくらいだろうか? 私たちは確率や計算、とにかく数字に囲まれている。新型コロナウイルスの感染拡大によって、毎日感染者数やら検査率やら、ニュースは繰り返し数字を唱えている。

 一方で人間は、数字を絶対だと思い込みやすい。私は特に数字のトリックに弱いので、いつか詐欺にひっかかりそうで正直怖い。

 そこで手にとったのが、『世界の猫はざっくり何匹? 頭がいい計算力が身につく「フェルミ推定」超入門』(ロブ・イースタウェイ:著、水谷淳:訳/ダイヤモンド社)。数学分野の発展に尽力したことでメダルを送られたほどの著者が、適切なデータが手に入らない状態(例えば世界中の猫の数)で行う計算、通称「フェルミ推定」の計算方法などを教えてくれる。

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精緻な数値より、おおざっぱな計算が役に立つ?

 著者は自分で計算することの大切さ、とりわけ「おおざっぱな数値を出すこと」の重要性を説く。小数点以下2ケタ程度まで示されたような、精緻な数値のほうが信頼しやすい。ただ、精緻な数字は「正確な数字」ではないのである。

 不確定要素が大きく影響するデータだったり、計算方法が間違っていたりすると、どうしてそうなる? というトンチンカンな数字になってしまうことはままある。そして恐ろしいことに、それを信じ込んでしまうのだ。

 一方、「フェルミ推定」は最初から適切なデータがない。その中で自らが「おおざっぱな数字」をはじき出し、おおざっぱな計算でおおざっぱな数値を編みだす。いわば脳トレの一種であり、地頭の良さを測るための思考問題として、入社試験にもよく用いられている。

まずは計算のコツから。「ジコール」を活用する

 何やら複雑そうな内容で置いてかれるのではと思いながら読み進めたら、最初は計算のコツから話が始まったので安心した。小数や分数、累乗など、数学ではなく計算領域の話なので、むしろ懐かしいし、ローンや貯金の金利の話は、きっとあなたも背筋を伸ばして読むだろう。

 概算値を出すために「ジコール」を使用するとわかりやすいと言う。著者が作ったもので、専用の記号もある。

ジコールの発想は、計算に取りかかる前にすべての数を有効数字1桁まで丸めて単純化するというものである。

 要するに、一番近いシンプルな数に近づけるということだ。73だったら70、2947だったら3000。日本人には「四捨五入」に近いと言えばわかりやすいだろう。実際5以上だったら繰り上げるそうだ。

 全く違う答えになるのでは、と思うが、意外にこれが(おおざっぱに)合う。

5331÷31は?
ジコール化すると6000÷30で、答えは200。やはり正確な答え(181)からそう遠くはない。

 算数の宿題なら不正解。しかし、5331個の商品を1ヶ月後までにすべて梱包しなければならないと場面だったらどうだろう。「1日200くらいできれば間に合いそうだよね」とサラリと言えたら、かなりカッコいいと思う。

フェルミ推定は現実世界にも応用できる頭の体操

 後半は「フェルミ推定」のやり方を、さまざまな例を基にレクチャーしてくれる。例えば最初に出した「宝くじ1等が2回当たる確率」。実際に当たった人がいたらしく、「16兆分の1」というとんでもない数字が報道されたらしい。著者はそれに待ったをかけ、およそ20万分の1、と数字を明快に算出する。その手順は鮮やかだが、けしてひらめきや数学的知識だけではない。「2年間に何回宝くじを買うか」「その枚数は1枚ではないだろう」といった、物事に気づく力を基に計算している。

 実際やってみると難しいが、脳が動いている実感が得られる。私のような数字に苦手意識がある人こそ、フェルミ推定をマスターすべきなのかもしれない。

 今どきは、スマホとパソコンでなんでもわかる。だからこそ自分の頭を使う。きっと私たちを助け、高めてくれるはずである。

文=宇野なおみ

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