「脳男」が帰ってきた! 連続異常殺人のカギを握るブックキーパーとは? 強烈新キャラも登場

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/7

ブックキーパー 脳男
『ブックキーパー 脳男』(首藤瓜於/講談社)

 恐るべき知能と驚異的な身体能力を持ちながら、一切の人間らしい感情を持たない男、鈴木一郎。彼を主人公とした首藤瓜於『脳男』は2000年の第46回江戸川乱歩賞を受賞し、2013年には映画化。そして、2007年にシリーズ第2弾が刊行されてから、実に14年ぶりとなる最新作が『ブックキーパー 脳男』(講談社)だ。

 警視庁内で、異常犯罪のみをデータベース化する作業を任されていた桜端道(さくらばなとおる)は、1カ月の間に年齢も住所もバラバラの3人の男女が拷問の末殺害されたという事件に目をつける。

 なぜ、手の指を切り落とされる、足の爪を一枚ずつ剝がされた後、叩き潰されるなどの拷問を受けなければならなかったのか。共通点が全くないと思われていた3人だったが、彼らがネットショッピングをしていたサイトのサーバー設置場所が一致。それは、中部地方に位置する愛宕(おたぎ)市という場所だった。

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 一方、愛宕市でもまた、氷室家という財閥の当主・氷室賢一郎が足の指を一本ずつ切り落とされた後に殺されるという事件が発生。先行する拷問殺人事件との関わりを捜査するため、異常犯罪およびサイバー犯罪のエキスパートである若き女性警視・鵜飼縣(うかいあがた)は愛宕市へと向かう。

 実は、愛宕市では3年前にもう1つ、キナ臭い事件が起きていた。しかし、管轄の鞍掛(くらかけ)署が事件を隠ぺい。さらに鞍掛署では、秘密裡に謎の老人の行方を追っており、そのことがさらなる殺人事件へと発展していく。

 拷問殺人事件と鞍掛署の秘密を追ううち、愛宕市に代々続く旧家・能判官(のうじょう)家の存在が浮かび上がる。室町時代から愛宕の地で重要な役割を果たしており、時の権力者たちともつながりを持ってきたという能判官家。しかし、金や権力で支配してきた痕跡は見られない。では、能判官家が長い間権威を保ってきた理由はどこにあるのか。鞍掛署に巣食う腐敗体質と能判官家の謎の出現により、物語は一層不気味さを増していく。

 何層も重なり合う事件と謎。その中で本書のタイトルでもある「ブックキーパー」とは何か、いったいどのように物語に関わるのかが大きな読みどころである。

 ストーリーの巧みさだけでなく、個性的な登場人物たちの掛け合いもまた魅力的。シリーズ1作目からおなじみ、巨漢の茶屋警部や精神科医の鷲谷真梨子といった人物も再び活躍するが、何といっても、本作で初登場となったキャラクターの鵜飼が強烈。二十歳そこそこで警視という役職につくほどの頭脳の持ち主であり、権力に媚びることなくどんな相手も「あんた」呼ばわり。歯に衣着せぬ物言いと、鋭い観察眼で事件の核心に近づいていく。時にゴスロリ、時に金髪ウィッグ、時にダメージジーンズというファッションに身を包みながら。

 そしてやはり、“脳男”こと鈴木一郎が物語にどのように絡んでいくのかも見逃せない。1作目から一貫して、鈴木の行動原理は彼にとって最も合理的か否かのみである。そこに喜怒哀楽や憐憫の情などは一切挟まれず、合理性さえ見いだせれば殺人さえ平気でやってのける。

 そのため、彼の驚異的な知能や身体能力は、他の登場人物からすれば諸刃の剣だ。些細なことがきっかけで敵にも味方にも転びうる鈴木の存在が、強烈な新キャラ・鵜飼にどう絡んでいくのか。予想のつかない展開にページをめくる手が止まらない。

文=林亮子

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