映画化で話題!水泳少女と習字少年の出会いから始まる、恋と冒険の物語『子供はわかってあげない』

マンガ

公開日:2021/7/8

子供はわかってあげない
『子供はわかってあげない』(田島列島/講談社)

 水泳部員・朔田美波(さくたみなみ)は練習中のプールから、校舎屋上にいる少年を見かける。彼の名は門司昭平(もじしょうへい)。この2人の出会いから物語が始まる。

『子供はわかってあげない』(田島列島/講談社)は“要素”が多い作品である。水泳×書道×アニメ×宗教×超能力×LGBT×探偵×実の父×夏休み、それを恋で割ったような、複雑な味わいの作品だ。あえて単純に説明すれば、一人の少女の、ひと夏の冒険譚である。

「マンガ大賞2015」で2位となり、2021年8月には沖田修一監督による実写映画が公開される話題の漫画だ。

advertisement

少女は少年に出会い、冒険に出かける

 大きなカンバスに筆で描かれていたのはTVアニメ「魔法左官少女バッファローKOTEKO」だった。「KOTEKO、好きなのか?」と書道部の門司(以下、もじくん)は言った。「ああ、かなり」と朔田(以下、サクタさん)。趣味の合致したもじくんとサクタさんはこの日から仲良くなる。

 ある日、事件が起こる。もじくんは、彼が屋上にいることに不良に目をつけられ、抵抗したのかケガをさせられたのだ。

 お見舞いに行ったもじくんの家で、サクタさんは“おふだ”を見つける。それは母と離婚し、行方不明の父親から送られてきたものと同じだった。実はもじくんの祖父はある宗教団体のおふだを“ゴースト染筆”していたのだ。さらにもじくんにはトランスジェンダーの兄・明大(あきひろ)がいて、職業は探偵だという。この偶然を生かし、サクタさんは貯金をはたいて明大に父・藁谷友充(わらがいともみつ)の捜索を依頼する。

 すると2人と入れ違いに、明大へとある宗教団体からの依頼が入る。それはお金と共に姿を消した教祖の捜索依頼で、その教祖こそサクタさんの父親だった。

 宗教団体の依頼がヒントとなって友充はあっさりと見つかり、サクタさんは彼に会いに行く計画を実行する。水泳部の友達・宮島さんに協力してもらい、母親には水泳部の合宿に行くと伝えて家を出た。

 父の許へ行く道すがら、サクタさんは明大から「依頼料をまけるかわりに、友充が本当に宗教団体からお金を盗んだのか調べる」というハードボイルドなミッションを任され、彼女は部活の合宿期間中、父の家に泊まり込むことに。

 娘は父からさまざまなことを聞く。離婚の原因だという友充が人の心を読めること。その能力を宗教団体で教えていたこと。そしてその団体から逃れた理由を。サクタさんは明大に報告しつつも、父との時間を居心地よく過ごした。

 一方、水泳部の宮島さんは、合宿が終わったのにサクタさんが帰ってこないことを心配し、もじくんを半ば強引にサクタさんがいる海沿いの町へ向かわせる。

 砂浜を歩き回っていたもじくんは、海で泳いでいたサクタさんと出会う。いきなり現れたもじくんのせいで、彼女は自分の心の中に手に負えない暴れ馬が出現し、衝撃を受けた……。

夏の終わりに彼女が得たもの

 もじくんに連れられて自宅に帰り、彼女の冒険は終わった。だがサクタさんの“大変”はおさまらない。彼女の心の中でなんだかわからない馬が暴れていたからだ。その馬の正体は、ライクかラブか。暴れ馬は言う「俺への対抗措置はシンプルな言葉だ」。

 学校の屋上で二人きりになったもじくんに、サクタさんは「その言葉」を告げる。

 少女が大人になったひと夏の経験は、ききわけのよい娘が隠していた、実父への複雑な感情をあらわにした。少年に送り出され、そして迎えに来てもらうまでのこの冒険は彼女に必要だった。

 納得するのが大人になることなのかはわからないけれど、とにかく彼女は充足した。だからこそ、この夏の終わりに暴れ馬=恋する気持ちが待っていたのかもしれない。

 ほのぼのとした絵柄、突飛だけど楽しいセリフの数々、さっぱりとした作者・田島列島氏の作風で読後感は本当に爽やか。水泳×書道×アニメ×宗教×超能力×LGBT×探偵×実の父×夏休みという要素はしっかりとつながり、細かい伏線も見事に回収される。

 上下巻2冊は何周もするのにもちょうどいいあんばいの長さだ。ぜひじっくりと1コマ1コマ、セリフの一つ一つを読み返してみてほしい。きっと「読むとうっかり元気になる、お気楽ハードボイルド・ボーイミーツガール」このキャッチコピーに納得してしまうはずだ。

文=古林恭

あわせて読みたい