コロナ禍で人間関係に悩む人に贈りたい、辛酸なめ子さんの新作『新・人間関係のルール』

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公開日:2021/7/11

新・人間関係のルール
『新・人間関係のルール』(辛酸なめ子/光文社)

『新・人間関係のルール』(光文社)は、独特な目で人間観察を重ねる辛酸なめ子さんの新刊である。内容は、同窓会や女子会、リモートワークなどシーン別の辛酸さん流処世術。前半はコロナ禍以前の生活にあったパーティーや交流会でのエピソードが多く、後半からはコロナ禍で変容した生活や人間関係への考察が光る。

 生活様式が激変しても、人間関係にまつわる悩みは絶えない。仕事では苦手な人と関わらなければならないし、微妙な距離の友人や知人にも気を遣う。心身が弱っていると、そういうときに限って人間関係のいざこざに巻き込まれる。

 そんな身近な人間関係を、ゆるく受け流す方法をやんわりと伝えてくれるのが本書だ。ただし、この本で得られる学びのほとんどは、辛酸さんの経験談から読者が自然と感じとるものである。ノウハウ本や啓発本の類ではなく、エッセイ本として楽しむものだろう。

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 とくに私が楽しめたのは、女性ならではの風習や性質を描いたエピソードである。年齢層によって盛り上がる話題が変化するという話が、その一例だ。女性同士で盛り上がる話題は、二十代だと恋愛トーク、三十代だと人脈について、と変化する。いずれも相手よりも自分が勝っているというマウントの姿勢がちらつくものだが、四十代になるとこれが一変するらしい。

 四十代は、自分の不幸や人生の試練を共有するようになる。互いに慰めあい、試練を乗り越えたことをリスペクトしあうのだとか。この微細な変化を読み取れないまま年齢を重ねて、いつまでも無自覚なマウントを続けていると、いずれ総スカンを食らいそうだ。三十代半ばを迎える身としては、他人事とは思えない。

 コロナ禍で生まれたマスク生活やオンライン飲み会を扱ったエピソードも充実している。一番印象深かったのは、パーティー文化の消失や大人数の飲み会の減少について書かれた章だ。

 友人グループとの飲み会で、人数制限されたらあぶれるのは自分だろうか。ポジティブなエネルギーを吸収すべく定期的に参加していたパーティーは、いつかまた開催されるのだろうか。そんな思いを淡々と語る辛酸さんの文章は、コロナ禍で退屈な自分の中で渦巻く小さな不安や疑問を代弁してくれているようで、ほっとする。

 結局自分自身が対面するのは人であって、人を学ぶには人を観察して考えるほかないのだ。そういう意味で、まず人間観察から入る本書から得られる学びは豊かだと思う。人生なんとかなる。そんなふうに思わせてくれる一冊だ。

文=宿木雪樹

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