話題の新人作家・芦花公園による『異端の祝祭』。圧倒的な知識と筆致で描かれる、カルトホラー

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/12

異端の祝祭
『異端の祝祭』(芦花公園/KADOKAWA)

『異端の祝祭』(芦花公園/KADOKAWA)は、現代社会の影と心霊現象を織って巧みに描かれたカルトホラー小説である。小説投稿サイト「カクヨム」に投稿したホラー作品がSNSで話題を呼び、同作を書籍化した『ほねがらみ』で作家デビューを果たした芦花公園さんの第二作だ。怪談や怪奇現象を扱うホラーに、宗教や民話の要素と、読者を引き込む謎解きを取り入れる作風が持ち味。『異端の祝祭』は、デビュー作に登場したテーマやモチーフを扱いつつ、より精巧に組み上げた書き下ろしの作品である。

 島本笑美は、生者と同じように死者が見える女性だ。その能力が心身に影響を与えるため、周囲との人間関係や日常生活には困難がつきまとう。就職活動にも困っていたある日、誰もが知る大手食品会社からまさかの合格通知が届いた。笑美は喜んで会社の研修に参加するが、そこで理解しがたい業務を言い渡される。内容に違和感はあるものの、笑美は研修中の出会いや待遇に幸福を感じ、社会から隔絶された研修活動に没頭していく。

 そんな笑美の変化に危機感を抱いた兄の陽太は、笑美の就職先について調べ始める。自力での救出が困難と悟って調査を相談した先は、「心霊関係」専門の探偵事務所だ。民俗学を学び、心霊現象に強い博識の佐々木るみが、笑美の救出を目標に動き出す。

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『異端の祝祭』のおもしろいところは、純粋に怖いホラーでありながら、呪文や儀式の背景を民俗学や宗教学に照らし合わせる謎解きも楽しめることだ。背筋がぞっとするシーンを読みながら、「この現象や文言は何を意味しているのか」と考察する脳も働く。小説だからこそ表現可能な伏線も鏤められているので、何度も前に戻り、読み返した。ホラー小説と一言でまとめづらい、なんとも新鮮な読書体験を楽しめる。

 また、本作で描かれているカルト的な恐怖は、社会を見直すきっかけをくれる。私たちは、“常識”と呼ばれるルールに則って生活している。そのルールはいちいち確認するものでもないし、ふだん意識すらしていない。でももしも、自分とはまったく異なるルールによって成り立つ生活圏や領域が存在していたら。また、そこで生まれ育った人々にとって、私たちが信じる“常識”が異常だったら。言語が通じないならば互いに言語を学べばいいが、思想の根幹が異なる場合、コミュニケーションを取ることは難しい。自分の価値観が理解されない恐怖は、何にも代えがたい一方、決して珍しいことではないと思う。その当事者になった場合、取れる対策は排他しかないのだろうか。

『異端の祝祭』をジャンルで分類するならば、間違いなくカルトホラー小説だ。随所に登場する耳元で鳴る音、生々しい匂いや異形の描写は至上の恐怖と気味悪さを感じさせてくれる。儀式や悪夢のシーンは、読後もねっとりと頭にこびりつき、離れてくれない。

 しかし、私がもっとも印象に残ったのは、現代に生きる弱き私たちへのメッセージだ。「あなたが、自分で考えなさい」。この言葉は、はるか昔から人間が犯し続けている罪の連鎖を断ち切る一筋の光のように感じられる。どんなシーンで、誰から誰に投げかけられる言葉なのか、ぜひその目で読んでほしい。

文=宿木雪樹

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