ブラック企業の社畜サラリーマン、念願の異世界スローライフで選んだ職業は…?

マンガ

更新日:2021/7/20

拝啓…殺し屋さんと結婚しました
『鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ』(たままる:原作、日森よしの:漫画/KADOKAWA)

 異世界で第2の人生を送るなら、どんな職を選ぶだろう。今と同じような仕事か、それとも全く別のものだろうか。自分がいざ「好きな職を選んでいい」と言われたら、やはりチート能力付きの剣士や魔法使いを選ぶのかもしれない。努力せずとも人より強く、最強の剣を振り回し、どんな魔物も一撃で倒す――。あこがれる。でも、ここで紹介する異世界転生モノの主人公は、なんと「鍛冶屋」だ。華やかな剣士たちが振り回す刀を作っている。なぜだろう。

 本作『鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ』(たままる:原作、日森よしの:漫画/KADOKAWA)は、少し変わった異世界転生モノだ。“スローライフ”とタイトルにあるように、チート能力で敵を倒して血しぶきを上げることはない。ブラック企業で社畜プログラマーだった主人公の英造(えいぞう)は、転生時に希望の職業を訊かれ「鍛冶屋」と答える。物を作るのが趣味で、それで生計を立てたいという。彼を転生させた謎の存在“世界を見張るもの(ウォッチドッグ)”はその願いに応え、鍛冶屋のためのチート級スキルを与えた。

鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ

鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ

鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ

 転生し異世界の知識が“インストール”された英造は、森の中でひっそり鍛冶屋を始めるのだが、気づけば女の子と一緒に暮らしている。なんともうらやましい…。ひとり目は、森の中で倒れていたところ介抱した獣人サーミャ。金髪巨乳の美少女で、はじめは疑り深いが英造の人柄を知るにつれて心を開いていくところがかわいい。もうひとりは、英造の職人としての実力を見込んで弟子入りを志願しにきた褐色ドワーフのリケ。まっすぐだけどポンコツなところがかわいい。

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 本作のなによりの魅力は、まさに“スローライフ”な作品の世界観だ。共同生活によって居場所を見つけていくキャラクターの様子や、英造やリケがひたむきに刀づくりに向き合う姿を、やさしいタッチで表現していく。せわしない日常の中で、この作品を読んでいる間はホッと一息つけそうだ。

 しかし、物語はどうやら、美少女と刀を作っているだけでは終わらない様子。1巻の冒頭では、英造の作と思しき刀で戦う只者ではないふたりのキャラクターが描かれている。またラストで、英造は自分にチート能力を与えた“世界を見張るもの(ウォッチドッグ)”にある疑念を抱く。おそらく今後の展開のカギになるのだろう。

 本作は、第4回カクヨムWeb小説コンテストの異世界ファンタジー部門で大賞を受賞し、カクヨムの年間総合ランキングでも2019年に1位を獲得した人気小説のコミカライズ。だから、おもしろさはすでに保証されているといっていい。原作未読の方は、気軽に作品の世界観を味わえる内容になっているから、ぜひまっさらな気持ちで手に取ってほしい。すでに原作を読んでいる方は、スローライフ中のヒロインたちの何気ない表情など、小説では挿絵のなかったシーンを存分に楽しめるはず。いずれにせよ、買って損はしない良質なコミカライズだ。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7

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