アニメもスタートして話題の『ヴァニタスの手記』。原作コミックからその魅力あふれる世界観や設定を紹介!

マンガ

公開日:2021/7/12

ヴァニタスの手記
『ヴァニタスの手記』(望月淳/スクウェア・エニックス)

 2021年7月にアニメ『ヴァニタスの手記』の放送が開始した。制作はボンズ、音楽は梶浦由記。そして原作は『PandoraHearts(パンドラハーツ)』の望月淳だ。音楽の梶浦は2009年の『PandoraHearts』のアニメも手掛けており、今作は望月淳と梶浦由記が再び組んだ作品でもある。これは見逃すわけにはいかない。

 本稿では、そんな話題作の原作コミックスから本作の魅力を紹介したい。

 舞台は、石炭の代わりに「星碧石(アストルマイト)」という石をエネルギーとしている19世紀後半のパリ。ここには密かに「向こう側」への扉が存在しており、「向こう側」には、人間とは敵対関係の「吸血鬼(vampire ヴァンピール)」が住む世界が広がっている。人間社会に紛れて生活する吸血鬼もいるのだが正体を隠しているため、一般の人間たちは吸血鬼は遠い昔のおとぎ話の存在だと思っている。

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 主人公は2人、人間のヴァニタスと吸血鬼のノエ。彼らが様々な問題の真相に迫っていくストーリーとなる。人間界で生活する吸血鬼ノエが、パリに行くために乗っている飛空艇の中でヴァニタスと出会うところから物語は始まる。吸血鬼を救いにきたと豪語するヴァニタスは人間であるにもかかわらず、吸血鬼の医者だという。ノエは驚く。人間が吸血鬼を助ける? 吸血鬼にとって忌むべき書である「ヴァニタス(蒼月の吸血鬼)の書」を人間が持っている? そんなことがあり得るのか?

 コミックスは2021年7月現在、9巻まで発売中。最新の9巻は、ヴァニタスの過去が明らかになっていく始まりの巻となる。もう一人のヴァニタスの書の持ち主が、ノエを使ってヴァニタスの記憶から「蒼月の吸血鬼」の最期を知ろうとするが……。

 という新刊の続きも楽しみだが、これから1巻から読む人のために、世界設定をもう少し説明しておこう。

 まずは、吸血鬼が実在することを知っている人間は、教会の者たちだけ。教会には「狩人(chasseur、シャスール)」という吸血鬼狩りに特化した戦闘集団がいて、吸血鬼を見つけ次第、一般の人に知られることなく、その首を刎ねるのが彼らの仕事だ。

 また、吸血鬼の中にも、「呪い持ち」を処分する役目の者がいる。「呪い持ち」とは、吸血衝動が抑えられなくなった吸血鬼のことで、我を失い種族構わず噛み付いてくる。これを処分するのが、「処刑人(bourreau、ブロー)」。同族殺しに当たるわけだが、この殺しは、「呪い」が吸血鬼全体に感染しないようにという目的がある。噛まれるとその吸血鬼も「呪い持ち」になってしまうからだ。

 主人公たちと彼らとの戦いも含めて話が展開していくので、各キャラクターたちの役割とそこから漏れ出る個性にも注目だ。繊細な線で描かれる華麗なバトルシーンでは、挑発と狂気と怒り、本当の自分とペルソナとがぶつかり合い、その表情のひとつひとつが読み手の心を鷲掴みにしてくる。

 19世紀後半のパリ、吸血鬼ものと個人的に惹かれる設定がいっぱいなのだが、作者は望月淳。当然ただの“設定売り”のはずはなく、バトルや友情だけを描いているものでもない。人の抱える孤独と、そこに手を伸ばすこと、その手を掴むことが本作の通底にある。

 また、登場人物たちの多くが、「自分は自分のことが憎い」「自分が嫌い」「自分は生きるに値しない」といった黒い塊を心の奥に抱えている。これには、自己肯定感という言葉が流行る昨今、理屈はわかるがそう簡単に腑に落ちるものではない、そんな思いを抱く人は特に感情移入ができるのではないだろうか。アニメで興味を持ったなら、ぜひ原作コミックスにも触れてもらいたい。

文=奥みんす

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