雑誌デビューから10年間の短編を収録! 尖っているのに柔らかい、田島列島さん珠玉の作品7選

マンガ

公開日:2021/7/10

田島列島短編集 ごあいさつ
田島列島短編集 ごあいさつ』(田島列島/講談社)

 田島列島はイイものだ。ファンは彼女の作品を読み続け、それを証明してきた。『田島列島短編集 ごあいさつ』(講談社)は、ブレイクした長編や最新作の原点になる作品集である。

「どうすればお金のもらえる漫画が描けるのかそればかり考えていました。それでも今見れば好き放題に描いて幸運にもお金をもらえた漫画たち」

 田島氏はこのように自作を評する。2008年から10年間にわたり発表された7本の収録作は、どれも登場人物たちの賢明さと、彼らが抱える複雑な感情、そしてすっきりとしたヌケ感のあるラストが共通している。

 まだ田島氏の世界に触れたことのない人は、本稿を読んで興味を持ったら、この短編集はもちろん、長編にも手を出してほしいと願っている。

advertisement

少し不思議で複雑な、現実にいそうな登場人物たちの物語

 7つの収録作のうち、私のお気に入りの3つを紹介する。

 表題でデビュー作でもある「ごあいさつ」(2008年)は、姉妹で暮らす家に、姉・りかの不倫相手の奥さんが毎日やって来る。修羅場? 昼ドラ? 当の姉は身を隠し、妹・ちかが対応せざるをえない。奥さんは怒るでもなくニコニコしている。そんな相手と向き合い、どうするべきかを考え、ちかが出した結論は……? なお本短編集、唯一の連作で、この数年後を描いたと思われる「官僚アバンチュール」(2010年)も収録。こちらはちかの友人が不倫をする話だ。

 2作目「おっぱいありがとう」(2014年)は同性のおっぱいを吸いたい女性・坂下さんの話。「どんな頼み事も聞く」と言われている同僚の女性・宮本さんに、坂下さんは思い切って「大人になった女は同性のおっぱいが吸えなくて不公平だ、だから吸わせてほしい」と言う。呆れながらもOKする宮本さん。気が済んだあとの展開は読んでのお楽しみ。

 3作目「Not found(ノットファウンド)」(2017年)は幼なじみの高校生男女を描く。アカネちゃんはヒロくんに「学校で告白された。だから彼氏のふりをしてもらって、穏便に断りたい」と頼む。恋愛は苦手なヒロくんだが、彼女を取られるのは嫌。つまり彼女が好きなので協力するのだが……。

「男の子に女として見られるのがおっかねえ、ヒロちゃんはヒロちゃん(だからいい)」と言うアカネちゃん。少年に去来する感情はタイトルの通り、まだ「見つからない」。けれど2人ともこれで満足なのだった。

きっぱり終わってみんな納得。オールアバウト田島列島な7編と蔵出し作品も収録

 短編というと、ぼんやりとした余韻を残したり、シュールだったり、読者に考えさせる物語も多いと思うが、この7つの収録作はそうではない。

 まず、どの作品も一見ゆったりした雰囲気だが、大なり小なりのシリアスな状況が存在し、きっぱりと終わる。この流れは実写映画化もされた『子供はわかってあげない』、最新作『水は海に向かって流れる』(共に講談社)といった長編も同じである。

 ほんの少しの「不思議」がスパイスになってはいるものの、登場人物は現実にいそうな人たちだ。彼らが複雑な事情や状況に悩んだ末に“納得する”までをコメディタッチで描いている。腹落ちしているだけに、結構まじめだったり重かったりした悩みも、笑い飛ばしてもいいと感じられるのだ。

 オールアバウト田島列島。彼女にしか描けない作品たち。雑誌に掲載された1Pマンガや書店用に配られたイラストまで収録されているのがファンにはうれしいところ。

 今回改めて読み終えて、田島列島はイイものだと再認識した。それをこれから証明していくために、私はしつこくおすすめしていこうと思う。

文=古林恭

あわせて読みたい