ここは一体どこ? ある島に流れ着いた少女と不思議な言語、歴史と未来の物語! 第165回芥川賞受賞作『彼岸花が咲く島』

文芸・カルチャー

更新日:2021/7/15

</div><noscript><img height=

” />

『彼岸花が咲く島』(李琴峰/文藝春秋)

 見知らぬ国に自分の居場所を見出したいなら、その土地の言葉を学ぶのが一番だ。言葉とは、その地域の歴史を反映しているもの。新しい言語を学べば、見える世界が広がっていく。

 第165回芥川龍之介賞候補および第34回三島由紀夫賞候補に選出された『彼岸花が咲く島』(李琴峰/文藝春秋)は、ある島に流れついた記憶を失った少女と言葉、歴史と未来の物語だ。ひとたびこの本を読めば、私たちはすぐに見知らぬ島の世界へといざなわれてしまう。芳しい彼岸花の香り。寄せては返す波のさざめき。意味が分かりそうですぐには分からない島の言葉…。島に居場所を見出そうと葛藤する少女を待ち受ける運命から目が離せなくなる。

 舞台はとある島国。彼岸花の咲き誇る砂浜に倒れ、すべての記憶を失っていた少女は、島に住む少女・游娜(ヨナ)に救助された。島にたどり着く以前の記憶を失っていた少女は、「宇美」と名付けられる。この島では、島の歴史を語り継ぐ女性指導者「ノロ」たちの下、自然や神々を尊ぶのんびりとした生活が営まれているようだ。特に、宇美が戸惑ったのは、島で使われる2つの言語「ニホン語」と「女語」だった。

advertisement

「ニライカナイより来(ライ)したに非ずマー?」
「リー、海の向こうより来(ライ)したダー!」

 これは、この島で使われる「ニホン語」という言葉。日常生活ではこの「ニホン語」が使われる一方で、「ノロ」になる女性だけが精通する「女語」という言葉もこの国には根付いている。島の長「大ノロ」は、外からきた宇美をこの島から追い出そうとするが、游娜などの説得により考えを改め、宇美に「女語」で告げる。

「出ていきたくないんなら春までに〈島〉の言葉を身につけなさい。そして、〈島〉の歴史を背負って、ずっと〈島〉で生きていきなさい」

 それはすなわち、「ノロ」を目指せという意味だ。宇美は一緒に「ノロ」になる試験を受験する游娜と、島の歴史を学びたいと願う少年・拓慈(タツ)に助けられながら、2つの言語「ニホン語」と「女語」の勉強に励んでいく。

 この島は一体どこなのだろう。読めば読むほど、疑問はふくらむばかりだ。それは、きっと宇美にとっても同じだろう。宇美にとって「ニホン語」は難解だが、「女語」は、宇美が前に住んでいた国の言語「ひのもとことば」と少し似ている。似ているようでどこか違う「ニホン語」「女語」「ひのもとことば」…。謎ばかりの言語の世界に、いつの間にか惹き込まれてしまう。

 この島は女性にばかり与えられる権限が多い。どうして「ノロ」は、女性しかなれないのだろう。男と女で差がある世界に宇美と游娜は次第に疑問を感じていく。そして、自分たちの力で、それを変えることはできないかと考え始めるのだ。

 この島の正体、3つの言語に隠された秘密が明らかになった時、あなたは何を思うだろうか。もしかしたら、この作品は、現代を生きる私たちへの警鐘なのかもしれない。よりよい未来を生み出すにはどうすべきなのか。悩みながらも未来へと突き進んでいく少女たちの姿がみずみずしい。最後には心に爽やかな感動が宿る一冊。

文=アサトーミナミ

あわせて読みたい