「依存症は回復する」――依存症患者に負の烙印を押して社会から排除する悪循環を断ち切るために

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公開日:2021/7/16

依存症がわかる本 防ぐ、回復を促すためにできること
『依存症がわかる本 防ぐ、回復を促すためにできること』(松本俊彦:監修/講談社)

「仕事後の一杯があるからがんばれる!」「休憩時間の一服でホッとひと息」「もうひと踏ん張りの前にコーヒーおかわり!」「眠いけどゲームしたい!」……こうしたありがちな日常風景に共通点があるのがわかるだろうか。それはどれも「自分以外のなにか、あるいはだれかに頼って生きている」という意味では「依存状態」にあるということ。「依存」というとネガティブなイメージを持つかもしれないが、こういう例で考えれば単純に「依存=悪」というわけでもないのがよくわかる。問題はこうした依存の程度が重くなり、日常生活に害をおよぼす「依存症」になってしまった場合だ。

依存症がわかる本 防ぐ、回復を促すためにできること p.10-11

 依存症というと薬物などをイメージする人が多いかもしれないが、上記の「アルコール(仕事後の一杯)」「タバコ(休憩の一服)」「カフェイン(コーヒー)」「ゲーム」は、いずれも依存性のある物質・行為であり、使い方をあやまると依存症の原因になりうる。

 依存症は自分には関係ないと思っていても入り口はかなり身近に存在しているわけで、であれば自衛のためにもあらかじめ依存症の知識を持っておくのは悪くない。このほど登場した『依存症がわかる本 防ぐ、回復を促すためにできること』(松本俊彦:監修/講談社)は、豊富なイラスト図解でわかりやすい初心者にもオススメの1冊。見開き完結でポイントが掴みやすいので、知りたいことがすぐに探せるのも便利だ。

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依存症がわかる本 防ぐ、回復を促すためにできること p.14-15

 本書の監修者・松本俊彦先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)によれば、依存症になるのは「つらい気持ちをかかえている人や苛酷な環境・状況にいる人、あるいは『自分には価値がない』『どこにも居場所がない』と感じている人、そして、それにもかかわらず、だれかに助けを求めることなく、物質や娯楽といった『モノ』だけで心の痛みをコントロールしようとする人」とのこと。つまり困難を抱えていてもなかなか「ヘルプ」を出しにくい人は、抜き差しならない状況になる可能性が高い。

 ならば「ヘルプを出せる社会を作ればいいのでは?」と思う人もいるだろう。まさにその通りで、本書も依存症の基本知識とあわせて「依存症を受け止める社会をいかに作るか」というメッセージを伝える。依存症から「回復」するための社会の受け皿にしっかり目を向け、身近な人が依存症になってしまった場合の対応、そして未来につながる予防教育についてもさまざまアドバイスするのだ。

依存症がわかる本 防ぐ、回復を促すためにできること p.54-55

 依存症はきちんと治療を続ければ回復可能だ。だが「薬物依存=犯罪」と依存症患者に負のスティグマ(烙印)を押して社会から排除し、「ダメ。ゼッタイ。」を標語に「二度とやり直しがきかない」というイメージを強化していく日本の中では、「依存症は回復する」という事実そのものが見えにくくなってしまう。そうした中では依存症当事者はもちろん、その家族や周囲も「正しい情報」を探すことが困難になり、ますます回復が遠のいてしまう。

 そんな悪循環を断ち切るためにも「少しでも多くの人に『困った人は困っている人であること』『依存症は解決可能な問題であること』を知ってほしい」と松本先生。まずは本書のようなガイドを得て、私たちひとりひとりが「偏見のない依存症のリアル」を知ることも大切な第一歩。こうした知識が広く浸透することが、やがて「社会を変える力」になるに違いない。

文=荒井理恵

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