これぞ“ベスト・オブ・稲川淳二”! 怪談本で背筋が凍った「赤いはんてん」の意味

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/17

稲川怪談 昭和・平成傑作選
『稲川怪談 昭和・平成傑作選』(稲川淳二/講談社)

 夏といえば、怪談。そして、怪談と聞いて真っ先に浮かぶのが、タレントの稲川淳二さんである。毎年全国を巡る「稲川淳二の怪談ナイト」も今年で連続29年、かれこれ50年にわたり、怪談を語り継いできた稲川さん。そのベスト版ともいえる書籍『稲川怪談 昭和・平成傑作選』(稲川淳二/講談社)が刊行された。

 本書では、500本以上に及ぶという過去の怪談から40本を厳選。独特な語り口がそのまま再現された内容はどれも、そのまま朗読して別の誰かにも伝えたいものばかりだ。

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長田君はどこへ行ったのだろう…

 ラジオ番組への出演時、本書について「数で勝負!(笑)」「かなり古い話が多い。自分も気に入っている話を多く入れた」と語った稲川さん。その中には、小学校時代のエピソードも収録されている。

 のっけから「これは、別にそう怖いっていう話じゃないんだ」と始まるのは「長田君の話」という怪談だ。タイトルにある「長田君」とは、小学2年生のときに稲川さんと同級生だった男の子。ある日、ふとしたきっかけで長田君とケンカしてしまった稲川さんは、その日の夜にとっさに彼の家へ謝りに行ったところ、家は真っ暗で人の気配がなかった。

 翌朝、学校へ行くと先生が「長田君は、引っ越しました」と言った。しこりを残したままの稲川さんだったが、後日、奇妙なできごとに遭遇した。友だちと一緒に土手にあった土管で遊んでいた稲川さんは、その中で「待ってくれよー」と長田君の声を聞いた気がした。しかし、誰の気配もない。そのとき、“変だなぁ”と思いつつ、稲川さんは「あっ、長田、死んだんだ……」と悟ったという。

トイレから聞こえる「赤いはんてん」の意味

 稲川さんがラジオの深夜放送を担当していたとき、番組宛てに1通の封書が届いた。差出人は、当時40代ぐらいのリスナー。内容は、その人が女子高生時代を振り返るエピソードだったという。

 高校時代に寮生活をしていた彼女。寮内のトイレの1室には、奇妙な噂があった。何でも、深夜に入ると、老婆の声でどこからともなく「赤いはんてん、着せましょか〜」という声が聞こえてくる。学校側も当初は本気にしていなかったが、寮生の目撃証言があまりに多いために、警察に相談した。

 ある夜から、トイレの1室には女性警官が張り込むことになった。そして、ある日の深夜に女性警官もついにその声を聞いた。しかし、気の強い彼女は「着せられるもんなら着せてみろ!」と怒鳴り返した。すると、肉を叩き切るような音と共に、寮内には女性警官の悲鳴が響き渡った。

 外にいた警官がトイレのドアを叩き破ると、そこにあったのは血の海。女性警官は首を切り飛ばされて、亡くなっていた。結局、その後も犯人は見つからぬまま。ただひとつ、分かったのは「赤いはんてん」の意味だけだった――。

 怪談を語り始めて「もう50年経ちますねぇ」と、しみじみつぶやく稲川さん。本書はまさに“ベスト・オブ・稲川淳二”と呼べる1冊だ。正直、この記事を執筆しながらも、机の後ろの窓が気になって仕方ないほど怖かったのも本音…。それほど背筋を凍らせてくれるので、暑い夏にもうってつけだ。

文=カネコシュウヘイ

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