フランス発・世界累計300万部突破の『夜』が日本上陸。欧州を席巻するミステリーの「余韻」に浸る

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/17

夜
『夜』(ベルナール・ミニエ:著、伊藤直子:翻訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

 フランスでベストセラーのミステリー『夜』(ハーパーコリンズ・ジャパン)。作者は元税務官のベルナール・ミニエだ。彼のシリーズ作品は、世界22カ国で刊行され、累計300万部突破の大ヒットを飛ばしている。また、Netflixでドラマ化され、ヨーロッパ中で一大旋風を巻き起こしている最中(日本では未放送)でもある。邦訳最新刊の『夜』は、『氷結』『死者の雨』『魔女の組曲』に続くシリーズ4作目となる。とはいえ、ひとつの作品として読める内容なので、前作を知らなくてもまったく問題はない。

 シリーズを通しての特徴は、読んだ後の余韻の重みがなかなか消えないこと。さらに付け加えるなら、読者に地団駄を踏ませる結末へのもっていき方が憎いほどに上手いことだ。

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 主人公は2人。1人目はノルウェー オスロ警察の国際犯罪捜査局の刑事、シュステン・ニゴール。40代の理知的クールビューティーだ。2人目はフランス トゥールーズの警部マルタン・セルヴァズ。47歳のバツイチで、射撃の腕が致命的だが、部下から慕われる人間味あふれる男性だ。彼は、成人した娘マルゴを不器用ながらも愛する父でもある。マルゴの母親とは別れており、その後恋人になったマリアンヌは、数年前から行方不明となっている。

 物語の始まりは、ノルウェー ベルゲンの教会で起こった殺人事件から。被害者は38歳の女性で、北海にある石油プラットフォームの作業員だ。石油プラットフォームは海底油田を掘るための建造物なので、大陸と切り離された人工島ともいえる。シュステンは、この事件の犯人を突き止めるべく、風雨吹き荒れる夜、ヘリでここへ上陸する。

 なぜ彼女がこの事件の担当なのか? それは、 事件が起きたベルゲンを管轄する警察からの協力要請があったからだ。では、なぜ彼女に協力要請があったのかというと、被害者が「シュステン・ニゴール」と書いた紙を握りしめて死んでいたからだ。

 シュステンは冷静に、犯人と思われる男が寝泊まりしていた部屋を捜索。見つけたものは、男の子の写真と、中年男性を望遠撮影した写真だった。

 一方、もうひとりの主人公セルヴァズは、トゥールーズで、ジョギング中の女性がレイプされた上で殺されたという事件を追っていた。ある雨が降る夜、犯人と思われる男を追い詰めるセルヴァズ。しかし追い詰めた先が悪かった。その男と共に高圧線に接近してしまう。犯人であろう男は感電による大火傷、セルヴァズはその男が追い詰められて撃った一発に被弾して大怪我を負う。当然、セルヴァズは、入院と自宅療養にて仕事を休まざるを得なくなる。

 ところが、セルヴァズは療養休暇中、突然上司である署長に呼び出される。署長は、セルヴァズが入ってくる前から部屋に居たシュステンを紹介し、「2人の追っている事件はかかわりがある可能性が高い。2人で協力して犯人を捕まえて欲しい」「石油プラットフォームで見つけた写真に、セルヴァズが写っていたから」と告げる。

 これにはベテラン警部のセルヴァズも絶句し表情が固まる。ベルゲンも石油プラットフォームも彼には縁のない所……と同時に、過去に取り逃がしてしまった殺人鬼ジュリアン・アロイス・ハルトマンの姿が彼の脳裏をよぎる。ハルトマンは、ジュネーブ裁判所の元検事であり、少なくとも5カ国で40人以上の女性を殺し行方をくらましたという、凶悪な殺人鬼だ。

 こうして、シュステンとセルヴァズの2人は、タッグを組んでハルトマンを追うことになるのだが、その舞台はフランスとノルウェーを飛び出し、オーストリア ハルシュタットにまで広がっていく。途中で遭遇する事件や不気味な出来事のすべてが、ハルトマンに繋がっているような気がする。でも、確証がない。ハルトマンに近づいたと思ったら、引き離されることの繰り返し。そんな中で主人公の2人は、お互いを愛おしいと思うほどに接近していく。

 本当に犯人はハルトマンなのだろうかという、疑いから始まる本書。犯人と思われる男が石油プラットフォームに残した写真に写る男の子の正体もキーになっており、セルヴァズの行方不明の恋人マリアンヌの影も散らつくという、何重もの謎。そして、蒼い夜の雪原を背景に繰り広げられる犯人との駆け引き。

 ちりばめられた数々の謎が、見事に繋がっていくラストは、誰にも予想できない仕上がりだ。この読み応えは、あなたを決して裏切るまい。

文=奥みんす

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