チュート徳井や青汁王子だけじゃない! その気はなくても脱税や所得隠しになる3つの「落とし穴」

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更新日:2021/8/2

実録 脱税の手口
『実録 脱税の手口』(田中周紀/文藝春秋)

 つい先日、某国民的アニメの制作会社社長が法人税と消費税計約1億3700万円を脱税した疑いで在宅起訴された(すでに全額を納付)。こういうニュースを聞くたびに、世の中「巨額のあるところに脱税あり」ではないけれど、少ない収入でもきっちり納税している身にしたら「なんだかなー」と思わざるをえない。

 ところで、ニュースを見ているだけではなかなか脱税の詳細まではわからないが、「もっと知りたい!」という方には『実録 脱税の手口』(文藝春秋)をオススメしたい。著者は共同通信やテレビ朝日の国税局担当記者をつとめ、「伝説の国税記者」とよばれたジャーナリスト・田中周紀氏。青汁王子、丸源ビルオーナー、元巨人軍選手などマスコミでも話題になった多くの事件を例にしながら「脱税」のリアルを教えてくれる一冊だ。

 大半のケースでは、いわゆる「架空経費」を計上しての資産隠しが常套手段になっているが、その後の展開や金額規模は実にさまざま。中には元国税OBが指南役として関わったり、助成金や税の優遇措置を悪用したりと、その巧妙さと大胆さに驚くことだろう。とはいえ脱税額は億単位にも及び「好奇心はそそられるけど、自分とは別世界…」と考える方もいるかもしれない。だが、税の世界には一般の人でも陥りかねない「落とし穴」があるので要注意。自分にその気はなくても「脱税」認定されかねない事例も起きているのだ。

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ケース1:納税意識ゼロだったチュートリアル徳井の所得隠し

 人気お笑いコンビ「チュートリアル」の徳井義実氏が、自身の個人事務所の法人税無申告と所得隠しが露見して活動自粛に追い込まれたことを覚えている人は多いだろう。「支払う意識はあるのだが、私の想像を絶するだらしなさ、ルーズさが原因」と釈明したが、2009年の事務所設立から一度も自ら確定申告をしたことがないという杜撰さだった(税務署の指摘で何度か期限後申告をしたことはある)。結局、追徴金も支払って昨年秋には芸能界復帰も果たしたが、本人に悪意はなくとも「納税意識の希薄さ」が思わぬマイナスに結びついてしまう例となった。なお芸能界にはあえて申告せずに「税務署にバレたら払えばいい」というバレ元スキームが存在するとのことで、本書にはいくつか事例も紹介されている。

ケース2:ルールに気がつかず窮地に陥った暗号資産投資家

 瞬時に巨額をつかめることを期待して、ここ数年人気を集めている暗号資産投資。投資家の間では暗号資産の売買益は「法定通貨に換金した場合に課税される」が長く通説になっていたが、それが間違っていたと大混乱になっているという。正しい暗号資産に関する計算方法は「他の仮想通貨を購入する際の決済に使用した場合」の差額も所得になるというもので、なんと2017年に発表された国税庁HPの「FAQ=よくある質問」にさらりと書かれていたのだ。日頃から税には注意していた投資家たちでもFAQは見落とした人も多く、思わぬ巨額の税がのしかかることに。そのままでは脱税になるため頭を抱えているという。

 本書にはこのほか、源泉徴収されていれば確定申告不要と思い込んで巨額を脱税したAV女優のケースなども紹介されているが、総じて税に対して「無自覚」でいると思わぬマイナスを被ることがよくわかる。かねてから日本の納税教育は不十分と指摘されているというが、だからといってそのままでいると危ない。昨今はサラリーマンの副業解禁も話題になるが、何か始める前には税についてもきちんと把握するのが身のためだ。

 最初こそ「節税」が目的だったはずなのに、欲に目が眩んで「脱税」にエスカレートし、結局は御用に…どんなに摘発事例が報じられても脱税事件はあとをたたず、本書で紹介されているのもほんの氷山の一角だ。お金は大事だが、それで人生を狂わせるのもいかがなものか。人の欲望のすさまじさが垣間見られる本書は、ある意味「反面教師」ともいえるだろう。

文=荒井理恵

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