もしもワニに噛まれたら…棒を使え!? 人食いワニ研究者による“ワニ大全”

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公開日:2021/7/27

もしも人食いワニに噛まれたら!最前線の研究者が語る、動物界最強のハンターの秘密
『もしも人食いワニに噛まれたら!最前線の研究者が語る、動物界最強のハンターの秘密』(福田雄介/青春出版社)

 日本に生息していない動物が逃げ出す事件が跡を絶たない。2021年5月には横浜市でペットとして飼われていたアミメニシキヘビが脱走、海外では人を丸飲みにする死亡事故も起きていたため警察が出動して大捜索を開始し、17日後に飼われていたアパートの天井裏で見つかって事なきを得た。また同じ時期には千葉県柏市で絶滅危惧種のミナミジサイチョウの目撃情報が相次ぎ、こちらは茨城のペットショップから逃げた個体であることがわかった(捕獲済み)。

 過去にはチンパンジー、イグアナ、フサオマキザル、レッサーパンダなども住宅や動物園から逃走、大捕物劇が繰り広げられたことがある。さらに戦前の1936年には上野動物園からクロヒョウが、1985年には沖縄こどもの国からライオンが逃げ出したこともある(クロヒョウは捕獲、ライオンは射殺)。最近では静岡県でペットのサーバルキャットが逃げ出した(無事捕獲)こともあった。また外来種である危険なカミツキガメやアライグマ、キョン(小型のシカ)などが野生化し、被害が出ている。

 そこで必読なのが、オーストラリアでワニ研究者として活躍する福田雄介さんの『もしも人食いワニに噛まれたら!最前線の研究者が語る、動物界最強のハンターの秘密』(青春出版社)だ。「日本ではワニに遭遇しないでしょ?」と思ったそこのあなた……甘い! 2014年、沖縄の飲食店で展示用に飼われていた体長約1.5メートルのメガネカイマンがフェンスで囲まれた飼育用池から逃走、数時間後に警察や動物園職員によって捕獲される事件があったのだ。記事によるとどこから逃げたのかは不明ということだったが……この本を読めば逃走経路は一目瞭然。ワニは本気になればフェンスをよじ登れるスゴい能力があるのだ。

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 さて件の「もしもワニに噛まれたら」の対処法であるが……なんと「棒」が有効なのだそうだ(福田さんはもしもの場合に備え、ワニ調査時には野球のバットを持参しているという)。棒をどう使うのかはぜひ本書をお読みいただきたいのだが、実はワニが人間を襲うことはとても少ないという。人間がワニのテリトリーに誤って入ったり、むやみに水辺に近づきすぎたりしない限り、動物パニック映画のようにやたらめったら噛みつかれることはないのでご安心を(ちなみにワニの主食は魚)。

 本書は「アリゲーター科」「クロコダイル科」「ガビアル科」というワニの大きな3つのグループの見分け方から始まり、ワニの体の秘密や生態がわかりやすく紹介される。犬のように後ろ足で頭を掻き、両手を広げた「飛行機ブーン」という状態で泳いだり(魚捕りのためと考えられている)、遠く離れた場所へ移動させられても元いた場所へ戻ってくる帰巣本能があったり、100日どころか100年近く生きる個体がいる説があるなど、見た目は怖いが意外と繊細なワニのことが読むうちにだんだんと愛おしくなってくる。もちろん平均値を超えて巨大化する個体についてや、獲物に食らいついて体を回転させる「デスロール」(死の回転!)を行うこと、「ワニVSサメ」といった血湧き肉躍る項目もあります。

 それにしても「なぜワニの研究者に?」と疑問に思いながら読み進めていたところ、「あとがきにかえて~どうやってワニの研究者になったのか?」というページが本書の最後にあった。将来の夢も希望もなかった16歳のある夜、たまたまテレビのドキュメンタリー番組でワニを見て、雷に打たれたように「ワニの研究者になる」と決めてしまったそうだ。現実でワニと遭遇するのはなるべく勘弁してもらいたいが、自分がまったく意図していないものと出くわすことは、人生において本当に大事なのだなと思わされた。AIによるオススメばかりを見ていても、これほど突き抜けた選択肢はたぶん出てこないだろう。ちなみに福田さんのツイッターは“ワニ愛”が横溢どころか常に爆発しており、様々なカッコいい、可愛いワニの写真や動画などの情報が投稿されているので、興味の湧いた方はぜひとも本書片手にフォローしてみてください。

文=成田全(ナリタタモツ)

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