夏の読書感想文にも最適! 「父親」を探す男の子3人組の、大人も童心にかえる冒険小説

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/21

フレディ・イェイツのとんでもなくキセキ的な冒険
『フレディ・イェイツのとんでもなくキセキ的な冒険』(ジェニー・ピアソン:作、岩城義人:訳、ロブ・ビダルフ:絵/岩崎書店)

 夏の課題図書が書店に並びはじめるこの時期、子どもだけでなく、大人も童心にかえり冒険した気分になれる小説をおすすめしたい。『フレディ・イェイツのとんでもなくキセキ的な冒険』(ジェニー・ピアソン:作、岩城義人:訳、ロブ・ビダルフ:絵/岩崎書店)はタイトルどおり、冒険に出た少年フレディがとんでもない奇跡にめぐりあう話。

 なのだが、フレディ自身は信心深いわけでも運命的なものを信じているわけでもなく、むしろ事実を蒐集することを好んでいる。〈事実はいちど手に入れたら、ずっと自分のものなんだ。なくなったり、だれかに取られたりもしない〉という信条は、緑内障を〈良くないしょう〉と思い込むような子どもにしては、なかなか大人びている。

 フレディの母親は生まれてすぐに亡くなり、おばあ(母方の祖母だ)と血の繋がらない父親との3人暮らし。そして6年生最後の日、学校から帰ると、フレディよりも長生きしそうだったおばあが、突然の心臓発作で亡くなっていた。そしておばあから残された手紙で、フレディははじめて、実の父親の名前を知らされるのだけど……。

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 人間は、突然死ぬ。父親も、いついなくなってしまうかわからない。そうなればフレディは天涯孤独だ。ネットで調べた実の父親がウェールズに住むアナリストだと知り、〈つまり事実を集めてるってことだ!〉と自分との共通点を見出したフレディは、育ての父親に黙って、ネットの情報だけを頼りに会いに行こうと決める。……なかなか無謀な思いつきだけど、それほどおばあの死がフレディに与えた悲しみは大きいということだ。文章じたいはまるで悲嘆にくれず、むしろコミカルに展開していくのだけれど(動転している父親の支離滅裂な会話や、フレディが“ラベンダーのにおいがする”と引っぱりだしたおばあのハンカチがパンツだったときには笑った)、だからこそ合間にふっとさしこまれる彼の孤独に胸をうたれる。

 旅の供である友達のベンも同様だ。両親が離婚した直後、父親は宝くじで大金をあて、あきらかに金目当ての女と再婚し、ベンにかまってくれなくなった。彼が旅に出るのはフレディのためだけでなく、彼自身に切実な理由があるのだということが読んでいるとひしひし伝わってくる。ちなみにもうひとりの連れであるチャーリーは、ややすっとぼけたぽっちゃりボーイだけれど、その存在が物語をますますユーモラスに仕立て上げる。3人のかけあいを読んでいるだけでくすくす笑ってしまうのも、著者が学校の先生だと知って合点がいった。「子どもってこういうことするよね!」というリアルさが細部に溢れているのである。

 彼らの道中は、早々にすっからかんになったり、賞金狙いで玉ねぎ早食いコンテストに参加したり、野宿をしいられ見つけた無人船で強盗に遭遇し、彼らの宝をもってきてしまったために、命を狙われるはめになったり、ひどいハプニング続き。だけど、すべての伏線がラストに向けて収束し、とんでもないキセキに繋がっていくさまは見事。彼らと一緒に冒険の旅に出れば、大人も子どもも笑って泣いて心がぽかぽかすることまちがいなしである。

文=立花もも

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