弟の彼氏と同居!? ワケあり男女の謎めくシェアライフを描く『このうちとまれ』

マンガ

公開日:2021/7/23

このうちとまれ
『このうちとまれ』(はるこ/リブレ)

 親の転勤や再婚、金銭面の事情など、何らかの理由で男女が同居をすることになり、そこから関係が深まっていくラブストーリーは多くある。しかし、そんな中でも『このうちとまれ』(はるこ/リブレ)はちょっと特殊な物語かもしれない。

 突然、弟から「彼氏と住む家を買った」と連絡がきた、アラサーOLの由宇子。しかし、その当事者である弟はなぜか雲隠れをしてしまう。そんな成り行きから、弟の代わりにローンを支払うことになった彼女は、弟の彼氏である小高に「弟さんの分のローンを肩代わりしながらご自身の家賃を支払っていくのは大変でしょう」と言われ、同居を提案される。

 弟に彼氏がいたことすら知らなかった由宇子は、そんな素性の知れない相手と奇妙な同居生活を始めることとなる。

advertisement

 もともとは行政書士だったが、家を買ったのを機に専業主夫になった小高。几帳面で綺麗好き、細かいところにも気がつく彼は、ズボラな彼女の生活に容赦なく口を挟む。家族の恋人との生活なんてギクシャクして当然のように思うが、何ともこのふたりは凸凹ながら波長が合っているようで、まるで長く一緒に暮らしている家族かのようなやりとりについ笑ってしまう。

 何とも不思議な作品だ。小高は弟への想いをもちろん捨てきれずにいるし、彼女はただ流れで暮らしているだけで小高に対する特別な想いもない。「弟」という存在だけがつなぐふたりの関係は、しかし日を重ねるにつれて少しずつ変化をしていく。

 最初は単なる「弟の彼氏」であり「素性の知れない男性」であり「可愛くない奴」だった小高に対しても、次第に彼の健気な姿や性格を知っていくうちに由宇子にとっても少し特別な存在へと変わっていく。

 小高にとっても同様だ。弟の姉であり、家事ができないズボラな女だと思っていた由宇子が、一緒に暮らしていく中で、だんだんと心の支えのようになっていることに気づく。彼女が家を出て行こうとしたときに、思わず止めてしまうほどに。

 果たして、このふたりはどのように関係を深めていくのだろうか。

 作中で、ふたりの暮らしは、表向きは「弟の家に姉が間借りして暮らしている」という設定になっている。それを聞いた近所の人に「このへんもいろんな事情のおうちがあるから大丈夫よ!」と謎に励まされるシーンがある。そんな人に対して、由宇子は「多様化とは言いつつも、結局は事情の『あるなし』なんだよなぁ」と思う。わかりやすい事情がなければ、“普通ではない家族”は訝しがられてしまう。きっと、由宇子と小高の暮らしも、誰かに正直に話せば不審がられるのだろう。しかし、作中でのふたりの暮らしは、いたって平和で、お互いに補い合う、ひとつの家族の形でしかない。

 これは単なる同居ラブストーリーではない、新しい家族の形としても面白い作品だ。

文=園田もなか

あわせて読みたい