幸せを求めているのに、うまく生きられない。“いびつな夫婦生活”を描く『黒蜜』の人気漫画2作品が単行本化!

マンガ

更新日:2021/7/29

あたらしい結婚生活
『あたらしい結婚生活』(本田優貴/白泉社)
戦略結婚~華麗なるクズな人々~
『戦略結婚~華麗なるクズな人々~』(とらふぐ:原作、黒沢明世:作画/白泉社)

 明るいテイストの女性向け漫画を数多くヒットさせてきた白泉社。2020年12月9日に配信が開始された電子コミック誌『黒蜜』は、そのイメージを大きく覆した。掲載作品が、サスペンスなどの衝撃作ばかりだったのである。

すぐに『黒蜜』は話題となり、好評を博した。

 連載作品には7月7日にテレビドラマが始まった『ただ離婚してないだけ』の作者・本田優貴さんによる最新作『あたらしい結婚生活』も含まれる。タイトルのとおり、不妊治療を諦めた夫婦が「あたらしい結婚生活」を始めようとする物語だが、この夫婦の関係性はどこか歪だ。

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 話題になったのはもちろんこの漫画だけではない。

『黒蜜』創刊号で最初に収録された『戦略結婚~華麗なるクズな人々~』(とらふぐ:原作、黒沢明世:作画)もそうだ。

 人生に絶望した地下アイドルが、東京タワーから飛び降りて自ら命を絶つ姿を生配信しようとする場面から始まるこの作品は、あっというまに苛烈な復讐の物語に変化する。

『黒蜜』創刊、そして連載開始から約半年が経ち、7月8日に『あたらしい結婚生活』と『戦略結婚~華麗なるクズな人々~』の1巻が発売された。「漫画は電子より紙の単行本で読みたい」と思っている人も手に取れるようになったのだ。

“私はずっと この先にある華やかな世界が見たかった”

『戦略結婚~華麗なるクズな人々~』は、主人公・芽衣(めい)のそんな言葉から始まる。

 華やかな世界とは芸能界のことだが、スターダムを駆け上がることができるのはごく一部。美しい歌声を持つ芽衣だが、その才能が発揮できず、死んでしまおうと決意する。だがその直後、彼女には思いがけない出会いと新たな運命が待ち受けていた。

 単行本1巻では、最後に元警視庁刑事のインタビューもある。漫画では反社会的勢力と芸能界の関わりも描かれているからだ。もちろん漫画はフィクションなので、現在の芸能界と異なることを前提として読む必要があるが、非常に興味深い内容だ。

 脚光を浴びることを渇望する芽衣と正反対の主人公が、『あたらしい結婚生活』の愛里(あいり)である。彼女は素直な女性だが、夫・義実(よしみ)との関係は歪だ。序盤で義実に「不要な謝罪が多すぎる」と平手打ちされた後、愛里は明るい笑顔で言う。

“いつも不出来な私を叱ってくださって ありがとうございます”

 どう考えても理不尽な暴力なのに、愛里は叱られると愛情を感じるのだ。

 また、不妊治療に関する事柄はリアルに表現されている。

 義実は良い夫に見えないが、「悪者」と断じることもできない複雑なキャラクターだ。彼は不妊治療がうまくいかないことを理由に愛里を責めることはしない。5年以上、きりつめた生活をして800万円以上費やした不妊治療をやめることにした2人。子供のいない夫婦生活に向けて、葛藤しながらも「したいこと」をお互いが協力して叶えようと義実は提案し、愛里は受け入れる。その姿からは希望を感じる。

 だがその頃から、義実は愛里と愛のある性行為ができなくなってしまう。ここでようやく、幸せだった愛里の心も陰りを見せる。大好きな夫と、愛のあるセックスがしたい。そういった気持ちから、1巻の終盤で愛里は初めて義実に反抗する。

 愛里の反抗は、読者が彼女に感情移入できるようになった瞬間でもあった。ここから、夫婦関係はどのように変わっていくのか。

『戦略結婚~華麗なるクズな人々~』の芽衣と『あたらしい結婚生活』の愛里。正反対なのに、自分なりの幸せを求める2人は、どこか似た部分があるようにも感じられる。

 どちらの漫画も、2巻で新しい展開を迎えることを予感させて終わる。続きが待ちきれない人は『黒蜜』で電子コミックとして読むこともできる。電子コミックと紙の単行本を見比べてみると、新たな気づきがあるかもしれない。

文=若林理央

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