誰かを“好き”になる気持ちを説明できる? 子どもと一緒に学びたくなる “哲学”のススメ

暮らし

公開日:2021/8/2

子どもテツガク
『子どもテツガク』(小川仁志:著、林ユミ:絵/主婦の友社)

 世界はもはや“不確実”な時代に。新型コロナウイルスの影響で日常が失われて以降、その言葉がいっそう身にしみてくる。教科書やマニュアルだけでは、対処しきれない現代。「自分の力で対応し、自分で答えを導きだしていかなければならない」と述べるのは、子ども向けの哲学書『子どもテツガク』(小川仁志:著、林ユミ:絵/主婦の友社)だ。

 かわいらしい動物たちのイラストと優しく語りかける口調で構成された本書には、86個の「なぜ」を収録。子どもたちに限らず「深く考える力」を身につけられる1冊として役立つ。

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哲学は「人に考えさせる」ことに意味がある

 哲学と聞くと、どこか“難しそう”というイメージを持つ人もいるだろう。真の意味はどこにあるのか。著者は「答えよりも問いの方が大事」と訴えかける。

 考えてみれば、現実社会では決まった答えのある問題などそうそうない。そんな世の中で哲学が大事なのは「人に考えさせるから」と言う著者。状況がどう変化しようとも「ぼくらにできるのは、その都度いちばんいいと思う答えを持ち続けること」「状きょうが変われば答えもまた変わる」と述べている。

好きの気持ちは「宝物」への思いに似ている

 素朴な疑問がたくさん並ぶ本書。はじめは「好きってどういうこと?」と、私たちにそっと語りかけてくる。

子どもテツガク P20〜21

 やわらかいイラストと共に書かれているのは「あの子のこと考えると胸がドキドキするのはなぜだろう」という問い。「だけどなぜかそれがとてもうれしい。これが好きっていうことなのかもしれない」と、私たちに考えさせてくれる。

 さらに、ページをめくると、「好きって、宝物が気になってしかたないのに似てる」との言葉が。誰かを好きになるのは「がんばってできることじゃない」と。それはまるで「ある日、ぐう然、宝物を見つけたみたいな感じ」で、自分の気持ちが届かないままだと「急に目の前から消えてしまうんじゃないか」と心配になる。しかし、「それが好きって感覚なんだと思う」と“ひとつの”答えを導いている。

みんなの「当たり前」は本当に当たり前なのか?

 新型コロナウイルス感染拡大のなか、「当たり前ってなんだろう?」と考える瞬間もある。この「当たり前」という言葉について「便利な言葉だと思わない?」と著者は問いかける。

子どもテツガク P40〜41

 当たり前と言えば「みんな納得する」と述べる著者。しかし、本当は当たり前でなくとも「考えるのがめんどうだからなんじゃないの?」と私たちに訴えかける。

 例えば、空が青いと聞けば当たり前と思うのはなぜか。その理由は「みんなそのことを知ってるはずで、理由も考える必要がないし、説明もしなくていいことだから」かもしれない。いろいろ思いを巡らせると、当たり前は「多くの人が当たり前だと思ってるはずだってことにすぎないのかも」とも考えられる。例外や疑問が出てくると「とたんに当たり前じゃなくなってしまう」というのも答えのひとつ。著者は「当たり前は当たり前をよそおってるだけなのかも」とむすぶ。

 本書には絶対的な答えが書かれていない。どんな問題に対しても「なぜ」と問いかける習慣を持つ力を養うのが、一番の目的だからだ。子どもと一緒に学べるのはもちろん、大人にも考えるきっかけを与えてくれるので、ぜひ一度読んでみてほしい。

文=カネコシュウヘイ

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