1時間の雨量が何mmを超えると車の運転を控えたほうがいい? 命を守るために知っておきたい気象情報

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更新日:2021/8/1

『新・いのちを守る気象情報』(斉田季実治/NHK出版)
『新・いのちを守る気象情報』(斉田季実治/NHK出版)

 6月終わりから7月はじめにかけて、梅雨前線が活発化した影響で線状降水帯が発生。沖縄、伊豆諸島、鳥取、島根など、各地で記録的な大雨が観測された。7月3日、静岡県熱海市では、豪雨による大規模な土砂災害が発生。多くの犠牲者を出した。

 十数年前から日本の気象が少しずつおかしくなり、素人目に見ても、ここ数年で激甚化している。全国どこにいても、記録的な気象現象に巻き込まれる可能性がある。もし私たちが気象災害に巻き込まれそうなとき、命を守るにはどうすればいいだろう?

『新・いのちを守る気象情報』(斉田季実治/NHK出版)は、NHK『ニュースウォッチ9』の気象キャスターで、連続テレビ小説『おかえりモネ』の気象考証もつとめる斉田季実治さんが、気象情報の読み解き方と防災の必須知識を解説した1冊だ。2013年に刊行された『いのちを守る気象情報』の改訂版にあたる。

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 本書のポイントは、気象庁などが発表する気象情報を、「いつ」「どの情報に注目すべきか」について重点的に解説していること。インターネットやSNSの普及で、気象情報自体は、いつでも、どこでも手に入れられるようになった。しかしその情報を正しく活用できなければ、命を守る行動にはつながらない。

 読者は、1時間の雨量が何mmを超えると車の運転を控えたほうがいいか、ご存じだろうか? 段階的に発表される防災気象情報と5段階の警戒レベルのうち、どの段階で避難の判断をすべきか、理解できているだろうか?

 本書では「大雨」「台風」「雷」「竜巻」「猛暑(熱中症)」「大雪」「地震(津波)」「火山」の8種類の災害を取り上げ、可能な限りやさしく解説している。本稿ではこのうち「大雨」と「台風」にしぼって、本書の内容の一部をご紹介したい。

大雨による災害はわずか10分で発生する

 急に強く降り、狭い範囲に短時間で数十mmの雨が降ることを「局地的な大雨」という。一部のメディアでは「ゲリラ豪雨」とも呼んでいる。

 大雨の怖いところは、ちょっとした油断が被害につながることだ。川の増水や土砂災害による危険は、ある程度予想できる。しかしほかにも「地下街に雨水が浸水」「アンダーパスの冠水」「増水の影響で用水路に転落」など、専門家でないと予想しきれない災害も発生することがある。過去の事例では、いずれも死者が出ており、大雨の恐ろしさを痛感する。

 斉田さんは「局地的な大雨による被害は、わずか10分程度で発生することがある。瞬時の判断ミスが命取りなので、大雨のときに発生する状況をできるだけ詳しく知っておきたい」と述べており、気象災害に対する知識の備えが命を守ることにつながるようだ。

1時間に30mm以上~50mm未満の「激しい雨」が降ったら危険

 では、具体的にどのような雨が降れば、命を守る行動をすべきだろうか。本書では、気象庁のWebサイトの資料をもとに作成した一覧表が掲載されており、簡潔に紹介したい。1時間に30mm以上~50mm未満の「激しい雨」が降ると、道路が川のようになり、ブレーキが利かなくなることもあるので、車の運転は危険だ。「激しい雨」が降った時点で、前述の災害が発生する可能性を考えて行動したい。

 ワンランク上にあたる50mm以上~80mm未満の「非常に激しい雨」では、傘が役に立たなくなり、視界も悪くなる。無論、車の運転はやめよう。河川やがけなど、危険な場所には絶対に近づかないこと。

大雨特別警報が出てから避難を始めては命が危ない!

 記録的な大雨に襲われたとき、気象庁や自治体が、段階的に防災気象情報や避難情報を発表する。記録的な気象現象に見舞われたとき、私たちはこの情報を活用して命を守る行動を選択するのだが、言い換えれば活用方法を知らなければ死活問題でもある。本書ではその一覧表が掲載されており、気象庁のWebサイトでも確認できるので、簡潔に紹介したい。

 大雨が数時間以内に降る警戒レベル3相当の時点で、高齢者や、土砂災害警戒区域・河川沿いに住む人は、避難を開始したい。この時点で大雨警報や洪水警報が発令されているからだ。

 さらに警戒レベル4相当になると、自治体から避難勧告や避難指示(緊急)が出されており、この頃にはすでに土砂災害や洪水が発生している可能性がある。そのため避難行動そのものが困難になる可能性があるので、すべての人が速やかに避難を開始。前述の危険な場所に住む人は、すでに避難を完了させておくこと。

 そして警戒レベル5相当になると、気象庁から、数十年に一度のとんでもない大雨が予想される「大雨特別警報」が出されており、通常は災害が起きないような場所でも危険が予想される異常事態となっている。この時点で避難が完了していない人は、危機的な状況にあるので、命を守る最善の行動をとろう。できれば警戒レベル4相当の時点で、避難を完了させておくことが命を守る最善策である。

 気象庁のWebサイトでは、土砂災害の危険度を示すマップ「土砂キキクル」、浸水害の危険度を示すマップ「浸水キキクル」、洪水の危険度を示す「洪水キキクル」が運用されており、大雨注意報が出た時点で、これらのページを注視するとよさそうだ。雨雲の動きや今後の雨予想のページもあるので、天気予報として日常的に使用しておくと、いざというときスムーズに活用できるはずである。

台風の襲来時には切れた電線に注意!

 本稿の最後に、これからの季節に襲来する台風についても紹介したい。台風は毎年やってくるので、基本的な知識は割愛。台風で気をつけたいのが、暴風で切れた電線だ。電線が切れて落ちていたとしても、電気が止まっているとは限らない。過去には、垂れ下がっていた電線をどけようと触れてしまい、感電死した事例もある。電線が切れていた場合は、電力会社や警察に電話をして対応してもらおう。何があっても絶対に触ってはいけない。

 また、台風がまだ上陸しておらず、日本から離れた場所に位置している場合でも、海水浴は気をつけたい。空は晴れていても、台風による「うねり」はすでに日本沿岸に到達している可能性があり、過去には高波や潮の流れで死亡事故も発生している。

 台風が発生した時点で、高波に気をつけよう。台風が接近する前日までには、屋外にあるものを撤収して、避難行動や食料の確保をしよう。台風が上陸したときは、原則として安全な屋内で過ごし、決して外に出ない。台風が遠ざかった後も、川の増水や切れた電線など二次被害が予想されるので、細心の注意が必要だ。

 このように本書は、読者に気象情報の読み解き方と防災の必須知識を解説しており、命を守る行動を選択できる知識が得られるようになっている。

 今の時代、気象情報はいつでもどこでも得られるが、気象情報を得る側にも知識がなければ、うまく活用できず、命の危機にさらされる可能性さえある。気象情報は、よりよい未来を生きるための情報であり、よりよい未来を選択して行動するのは、ほかでもない私たちなのだ。

文=いのうえゆきひろ

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