17歳の女子高生が予知能力で視た結婚相手は33歳の売れない小説家!? 月に1度の家賃取り立て時に育まれる恋が尊い

マンガ

更新日:2021/8/1

先生、今月どうですか
『先生、今月どうですか』(高江洲弥/KADOKAWA)

 恋とはこれほどまでに尊く、心に染み入るものであったか――。『ハルタ』で連載中の高江洲弥先生のマンガ『先生、今月どうですか』(KADOKAWA)を読み終えた時、品格さえ感じられる初恋の美しさと瑞々しさに、私は感嘆のため息を漏らした。

 本作の主人公は、17歳の高校生でありながら、アパート「コーポさくま」で大家を務める佐久間紫。彼女は、月に1度、アパートの住人を訪ね、家賃を受け取りに行く仕事を任されている。艶々ストレートの黒髪に、長いまつげ、すらりとした体型にセーラー服がよく似合う紫は、凛とした美しさを持つ女性で、少し変わった能力を持っている。

 それは、その人と自分が関わる近い未来を視ることができる予知能力。人に直接触れると発動するのだが、視る場面を調節することはできず、未来が変化することもあるので、能力のことは周囲に秘密にしていた。

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 そんな彼女が恋をするのは、103号室に住む33歳の四十万万里(しじまばんり)。どこか頼りない印象の、売れない小説家である万里は、度々家賃を滞納するのだが、紫は予知能力で彼と結婚する未来を視て以来、彼に恋心を抱き、その日が来るのを心待ちにしていた。

 物語は、月に1度、家賃を取り立てに行く日に際しての、2人の穏やかな…でも胸がきゅうっとなる交流が繊細に描かれている。家賃集金の日は、紫は頑張ってオシャレをして、気合を入れて万里のもとへ向かう。相も変わらずお金がなくて家賃を払えない万里に、厳しい言葉を投げかけながらも、彼の健康を気にして夕食を買ってきたり、文芸誌に万里の小説が掲載されると、走って買いに行き、真剣に熟読したあと、感想を伝えようと頑張ったり…。好きな人とまっすぐに向き合い、健気に応援するその姿は、さながら女神のようで、どうか彼女の恋が予知どおり、誰にも邪魔されることなく実りますように…と祈らずにはいられなかった。

 本作は、文字が比較的少なく、髪の毛1本1本にいたるまで、緻密に、清らかで美しく描かれた絵と、絶妙な“間”の取り方で、読み手の心に、誰かを一途に想う優しい気持ちや胸の高鳴りが、ゆっくりと味わい深く届く作品となっている。一見軽そうだが、小説のこととなると、途端にプロの顔を見せ、煙草をくゆらせながら真剣にパソコンに向かう万里の姿は、大人の色気を感じてドキッとした。また、そんな先生に恋をして、泣いたり笑ったり、表情がくるくる変わる紫も、とても可憐で微笑ましく、恋の素晴らしさを、共に堪能したかのような錯覚すら抱いた。

 万里の気持ちはわからないが、わずかに憂いを帯びた表情の彼が、紫の応援を励みにして、安心して日々を過ごす様子は心が温かくなったし、「先生との未来すべてが待ち遠しいです」と、未来にこっそり希望を抱く紫も、愛おしくてたまらない。月に1度、家賃を取り立てる日に、ほんの少しずつ進展する16歳差の恋。素直な心で、誰かをまっすぐに見つめる眼差しの美しさが、心に響くマンガである。

文=さゆ

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