成長を何よりも優先すべきなのか? フェイスブックに1000億円で買収されたインスタグラムに起きたこと

ビジネス

公開日:2021/8/5

インスタグラム:野望の果ての真実 (NewsPicksパブリッシング)

著:
翻訳:
出版社:
ニューズピックス
発売日:
インスタグラム:野望の果ての真実
『インスタグラム:野望の果ての真実』(サラ・フライヤー:著、井口耕二:訳/NewsPicksパブリッシング)

 インスタグラムのアプリをタップすると、おしゃれなロゴの下に「From FACEBOOK」の文字が表示される。これは、世界で10億人(日本では3300万人)以上が使う写真共有SNS・インスタグラムが、GAFAの一角である巨大企業・フェイスブックの傘下にあることを示している。普段利用するときは両者のつながりを意識することは少ないが、この関係はインスタグラムのあり方に大きな影響を与えた。

 インスタグラムは、2012年にフェイスブックに約1000億円で買収されている。当時の従業員はわずか17名。インターネット業界の歴史に残る破格の買収だが、その後のエピソードはあまり知られていない。本書『インスタグラム:野望の果ての真実』(サラ・フライヤー:著、井口耕二:訳/NewsPicksパブリッシング)は、インスタグラムの創業者ケビン・シストロムを中心に描いたノンフィクション作品。インスタグラムをよいものにするため情熱を注いだ彼は、フェイスブックに買収されたのち、2018年には会社を去る決断をする。そこには、組織で働くすべての人に通ずるジレンマがあった。

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インスタにはなぜ「リシェア」がないのか?

 シストロムを初め多くの関係者に取材を重ねて作られた本書を読むと、普段何気なく眺めているインスタグラムに込められたこだわりを知ることができる。たとえば、インスタグラムに「リシェア」機能がないのはなぜか。ツイッターのリツイート機能がよく使われていることを見れば、インスタにも他人の投稿をシェアできる機能があってもよさそうだ。

 だが、インスタグラムは「リシェア」機能を検討したものの、採用しなかった。それがユーザーの期待を裏切るものだと考えたからだ。私たちは、あるユーザーをフォローするとき、その人が生み出す写真、ひいては世界観を追いかけたいと思っている。そこに、リシェアされた別の人の写真があると、どう感じるだろうか? おそらく、がっかりするのである。

 創業者たちは、インスタグラムを通じて新しい世界に触れ、物の見方が変わるような体験をしてもらいたいと思っていた。だが、フェイスブックによる買収後、そのこだわりは成長第一主義の親会社としばしば対立する。

何よりも成長を優先するべきなのか?

 フェイスブックのやり方はシンプルだ。ユーザーがどこで離脱したかなどの情報をなるべく細かく集め、少しでもフェイスブックの利用時間が増えるようにひたすら改善していく。社員全員がフェイスブックのサービス内容を改変することができ、わずかでも業績に貢献したら評価される。

 対してインスタグラムは、コミュニティやユーザーの体験を重視していた。フェイスブックでは通知やリマインダーでアクセス数を伸ばすのが普通だが、インスタグラムではコミュニティを壊すおそれがあるため簡単にはやらない。シストロムら創業メンバーがインスタグラムで作りたい世界観は、フェイスブック式の成長戦略とはまるで違った。

 インスタグラムほど大きな舞台ではなくとも、私たちも仕事で同じような壁にぶつかることがあるだろう。組織や個人の数値目標がある中で、目の前の仕事が取引先や消費者の利益と相反する。小さい規模ならできていたこまやかな気配りが、大きくになるにつれてできなくなる……。インスタグラムとシストロムが直面したフェイスブックとの対立は、組織で働く読者にも重要な示唆を与えてくれるはずだ。

 こうした親会社との対立は徐々に深まり、ついに2018年――買収から6年後にシストロムはインスタグラムを去る決断をする。本書は、そこに至るまでの過程を丁寧に描く。特に「ストーリー」機能をめぐる攻防はぜひ読んでほしい。実は、「ストーリー」をはじめに世に送り出したのは、インスタグラムではないのだ。今や当たり前のよう使っている機能の裏側に、シストロムらの深い葛藤と決断がある。手に汗にぎる企業ドラマとしても、明日の仕事に生かすビジネス書としても、読み応え抜群の一冊だ。

文=中川凌 (@ryo_nakagawa_7

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