恋をするときめきと青春を存分に味わえる! 「青春なんてもう自分には他人事」と思う大人に捧げたい恋愛小説

小説・エッセイ

公開日:2021/8/5

君に恋をするなんて、ありえないはずだった
『君に恋をするなんて、ありえないはずだった 課外授業は終わらない』(筏田かつら/宝島社)

 高校生が主人公の恋愛小説って、もしかしたら同世代より大人にこそ刺さるのかもしれない……と思わされた小説『君に恋をするなんて、ありえないはずだった』(筏田かつら/宝島社)。2016年の第4回ネット小説大賞受賞作で、累計40万部を突破したシリーズの1作目である。このたび第4作となる短編集『君に恋をするなんて、ありえないはずだった 課外授業は終わらない』が刊行され、はじめての読者にも楽しめるつくりにはなっているのだけれど、読んでその甘酸っぱさにより身悶えしていただくには、やはり前提を知っておいたほうがいいだろう。

 主人公は、千葉の県立高校に通う地味なメガネ男子・飯島靖貴(やすき)と、その美貌で注目を集め、華やかな友達に囲まれている北岡恵麻。クラスメイトとはいえ、いってみれば住む世界のまるで違う2人だが、あることをきっかけに恵麻は靖貴の誠実さに、靖貴は恵麻のあどけなさに惹かれ、互いを意識しはじめる。だが、高校生にとってどのグループに所属しているかは、重大問題。あまりに異色の組み合わせに気づいた周囲はざわめき、恋のライバルが登場したり、靖貴を妬んだ男子から誹謗中傷を受けたり、さらに受験問題が浮上したりと、2人はすれ違いにすれ違いを重ねていく……。というのが、『君に恋をするなんて、ありえないはずだった』とその続編『君に恋をするなんて、ありえないはずだった そして、卒業』の内容だ。

『課外授業は終わらない』では、卒業して関係に変化が訪れた2人のその後や前日譚だけでなく、同作に登場していたさまざまなキャラクターのエピソードが語られる。とくにファンにとって嬉しいのが、靖貴と共通の趣味をもつ恵麻の友達・久美子の章だろう。彼女の卒業後については『君に恋をしただけじゃ、何も変わらないはずだった』でも描かれているので、ぜひそちらもお読みいただきたいが、大好きな友達と好みの男子の間で揺れる葛藤と優しさに、読んでいて切なくなる。そして、恵麻の幼馴染で性格も顔も男前な木村のエピソードも見逃せない。こんな母親に育てられれば、そりゃ色々とわきまえた紳士に育ちますわな……と納得させられもするし、はたからどれほど完璧に見えている人でも、内側には等身大の悩みを抱えているし、ひとたび恋に落ちれば冷静でなどいられないし、どんどん愚かになってしまうのだと、親近感もわく。

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 そう。恋をすると人は、こんなにも些細なことでうろたえてしまうし、自信のなさから馬鹿みたいな行動にも出てしまうのだ。ということを本シリーズは赤裸々に思い出させてくれる。それが、抑制的にふるまうことを覚えた大人には眩しくてたまらない。だけどその姿に強烈に惹かれてしまうのは、今でも、こんなふうに素直にまっすぐ大事な人に向きあえたらどんなにいいか、と願っているからではないだろうか。学生時代の“あるある”を思い出し懐かしむこともあれば、共感してときめく同世代の読者もいるだろう。だが、青春なんてもう自分には他人事だ、と思っている大人にこそぜひ読んでほしい。少しでも胸打たれる瞬間があるならばきっと、心のなかに青春のかけらが今も息づいているはずだから。

文=立花もも

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