世界を変える「最先端の教育」とは? フィンランドからソウルまで、教育の最先端をめぐるルポ

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公開日:2021/8/13

最先端の教育 世界を変える学び手
『最先端の教育 世界を変える学び手』(アレックス・ベアード:著、岩崎晋也:訳/東洋館出版社)

 その昔、学校のテストで勉強したことが、社会で役立っていると感じる人はどのくらいいるだろう。かつて一生懸命覚えた英単語もいまどきはスマホが簡単に思い出させてくれるし、歴史などの知識もネットで調べれば大抵わかってしまう。正直、大人になると「学校の勉強」は必要ないと思っている方もいるかもしれない。

 だが以前から「AIの進化は人間の仕事を奪う」と言われているように、テクノロジーに置き換えられない能力を身につけることが今からでも必要だろう。そのためにはやはり「学び」は大事。とはいえ今の時代に必要とされる「学び」とは何なのだろう。ちょっと皮肉屋の元イギリス人教師が、世界をまわって教育のあらゆる最前線をまわってみた見聞録『最先端の教育 世界を変える学び手』(アレックス・ベアード:著、岩崎晋也:訳/東洋館出版社)は、そんな大人たちに「学びの本質」を問い直す興味深い1冊だ。

「地球上のあらゆる大陸の学校へ行き、最先端の神経科学者や経験豊富な心理学者の話を聞き、伝説的な教育者に会った」と語る著者が目撃したのは、紫色の宇宙船の制服を着てノートパソコンを膝に乗せ、大きなヘッドフォンを装着してAIの指導で個別学習をすすめるシリコンバレーの子どもたち、読み書きもできないのにiPadを利用して映画を作ってしまうロサンゼルスの幼稚園児、厳しい時間管理と課題で集中力と学びの動機を維持させ底辺層の子どもに大学進学をかち取らせるイギリスの学校…。こうした教育の進化には驚嘆しきりだが、そこではかつて私たちの学びの中心だった「知識つめこみ」はテクノロジーやシステム的発想で効率的にこなす基本事項であり、自由に発想し、より深く読み解き、発展させることに重点がおかれていると気づかされる。テクノロジーはあくまでツールであり、大事なのはその先。そこでは「人間同士の学び合い」が再び深い意味を持ってくるのだ。

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 さらに著者はPISA(OECD加盟国の生徒の学習到達度調査)の上位常連国のフィンランド、さらには2018年度にトップとなった中国・上海、自由な環境で創造性を発揮するMITラボ、世界でも最高レベルに熾烈な受験戦争が繰り広げられる韓国・ソウルなど、さまざまな最先端の現場で「教える側」「学ぶ側」のリアルを取材。さまざまな取り組みの中から「いま必要な学びの本質」について思考を深めていくのだ。

 中でも示唆的なのは香港の学生民主化運動のリーダーであるジョシュア・ウォン、イギリスではじめての反過激派シンクタンク「キリアム」を運営するアダム・ディーンらの話だろう。いずれも巨大な敵と対峙する彼らが教えてくれるのは、これからますます「普遍的な真理や価値」を知り「批判的思考」を持つという姿勢が重要になるということだ。現代は無知のままでは陰謀論を真に受けたり、SNSで詐欺にあったり、ひどいときにはマインド・コントロールを受けてしまったりという危険が常にある。惑わされず正しく現実を判断するためにも、やはり「学ぶ」ことは重要なのだ。

 本書の最後には、「学習革命」の10のマニフェストをまとめている。あくまでも「子どもたちの教育」をメインにはしているが、「学びつづける」「批判的に考える」「創造的になる」といった内容は大人たちにもヒントを与えてくれるに違いない。なお日本の教育の現状からすると本書の実例はかなりハイパーなものばかりに見えるかもしれない。だが、グローバル時代の今は、こうした教育を受けた子どもたちが動かす未来の世界と私たちのくらしは地続きになっている。そんな彼らに将来おいていかれないためにも、私たちに学ぶことはまだまだ山ほどありそうだ。

文=荒井理恵

■最先端の教育 世界を変える学び手

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